#33 白兎

『こちらb小隊、基地敷地内に侵入する』


『こちらd小隊、基地内に侵入した。光学、熱探知ともに機影見えず。引き続き捜索する』


『こちらc小隊、基地内に侵入。発砲があった格納庫跡に向かう』


『こちらa小隊、後方支援の小隊長に代わりカイラが報告。大隊長とともに基地に侵入した。我々は基地北部を捜索する』


 カトーは汗で滑る操縦桿を握りなおした。今まで防衛戦を多くこなしてきたが、その緊張感とは全く別のものが未確認機捜索にはあった。どこにいるかもわからない敵。鼓動のせいで集中しにくい。ここまで訓練で培ってきたことを生かしきれる自信はない。だが、死なない。


 モニターの端で何かが動いたような気がした。とっさにそっちに盾を向けると、強い衝撃を盾に受け、後ろに弾かれた。なんとか倒れずに踏みとどまって自身の盾を見ると、表面が大きく抉られていた。運が良かったとしか言いようがなかった。


「敵襲!」


 カトーは叫んだ。応射しつつ建物の残骸に身を隠すため後退する。


『こちらc小隊、再び未確認機と交戦状態。繰り返す、c小隊再び未確認機と交戦状態』


 アンシュが通信で状況を伝える。


『ウィルソン曹長!無反動砲で奴をあそこから炙り出して!』


『承った!』


 ウィルソン機がバックパックにマウントしてあった無反動砲を構えて、敵の潜む格納庫跡に向けて発射した。


 155ミリ砲弾が炸裂し格納庫跡を吹き飛ばす。その一瞬前に格納庫跡から敵が飛び出した。メインカメラがついに未確認機を捉えた。


 他のヒューマーとは一線を画す機体だった。試験機なのか白を基調とした塗装がなされ、大抵は胸部と腹部に分かれている胴体については、胸部は“クシャトリア”に似てステルスと避弾経始を意識した流線型で腹部は何枚もの装甲板で覆われ柔軟な動きを可能としているように見えた。


『おい、あいつ贅沢にも首があるぜ』


 ニックがぼそっと言った。


 その機体には首があるのだ。他のヒューマーに関して言えば首に相当する部分は無いに等しく、しかしそれには腹部と同じように装甲板に覆われた首の上にウサギの耳のようなツインアンテナがついた頭部が乗っかっていたのだ。


『今まで見たことのない白い機体。なるほど、我々の目標はあの白兎というわけですな』


 ウィルソンが冗談めかして言った。


『なんだって“クシャトリア”よりひとまわり大きい10メートルの兎を、しかも対物ライフル持ってるやつを狩らないといけないんだ』


 アンシュが冗談を返す。


『なんでもいいがとにかくあいつをぶっ飛ばせばいいんだろう⁉︎』


 ニックが興奮したようにそう言った。


『こちらc小隊、未確認機を目視で確認。大型の対物ライフルのようなものを保持している模様。これから兎狩りを始める』


『こちらd小隊、こちらも白兎を確認した。こっちはステゴロだ。だがパイルバンカーを四肢に装備している。我々も狩りに移る』


『こちらb小隊、同じく白兎を確認。こちらは砲兵隊にやられたのか左腕を失っている。同じくステゴロ。鍋の準備に取り掛かる』


『こちらa小隊、白兎か。なかなか面白い。巨大なハルバードを持っている。兎狩りを開始する』


『ジェイコブだ。他の機体が参戦することもあり得る。油断するな。今夜は鍋だ。しっかり獲物を狩れよ』

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