#31 新たな決意
「大丈夫か?カトー」
ニックが、ベットに突っ伏して倒れているカトーを見かねて声をかけた。
「……大丈夫に、見えます?」
「見えないな」
「そういうことです」
「気にすんなって。あの小隊を1機やっただけでもすごいことなんだから」
「俺はなにもできなかったですよ」
「大隊長に弄ばれたからなぁ、いい経験だ。ポジティブに生きようぜ、もっと」
はあぁぁ、とカトーは大きくため息をついてベットから起き上がった。
「やっと気付きましたよ。俺、負けず嫌いです」
「おう、いいことだ」
「俺、ずっと負け組だったんですよ、たぶん。名前で分かると思うんですけど、日本で生まれたんです。中学生になったとき、母親が殺されたんです。中国人の強盗でした。その後、父の仕事の関係でフィリピンに移って、ずっと暮らしてたんです。なのに、奴らは母親だけでなく、第2の故郷まで奪った。許せなかったんです。あいつらは絶対悪だと思うようにしていました。だから正さないといけないんだと。でも違ったんです。大隊長に言われて気付きましたよ。ただ恨んでただけだって。復讐のために動いてただけだって」
ニックはカトーの言葉をじっと聞いていた。そして、彼が話し終わると口を開いた。
「んー、ダメなのか?」
「え?」
「復讐のために戦うってのはダメなことなのか?」
「え、え?」
「別に戦う理由なんてなんだっていいだろ?その感情に縛られてたのなんて当然のことだし」
「で、でも……」
「結局、お前はどうしたいんだ?」
「……」
カトーは黙り込んでしまった。
「俺にはよくわかんねぇけどよ、復讐てのはやられたことをやり返すわけだ。お前がそれを嫌がってんのか知らないが、嫌なら他の理由を考えてみろ。そもそも、理由なんてなくたっていいわけだけどな。父さんまだ生きてるんだろ?」
「……です」
「……なに?」
「誓ったんですよ。あのいけ好かない大隊長に、次は負けないって。それに、親父だっいけ好かない。自分がエリートだかなんだか知らないが息子に色々押し付けやがって。なにもかも奪った中国も、上から目線の大隊長も、息子の気持ちも考えない親父も、みんな見返してやりますよ、強くなってやりますよ。絶対生き残ってみんなぶん殴ってやります」
先ほどまでとは打って変わって、熱気のこもった声でカトーは宣言した。
「はっ、吹っ切れたな」
ニックが笑う。
「協力してくださいよ。俺1人じゃ勝てないんだ」
「おうよ。ま、今日のところは寝ようぜ」
「うす」
その夜はすぐに明けた。全面攻勢の日が刻一刻と迫っていた。
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