#29 第11旅団戦闘団
十数日後、カトーらはインドのシッキム州、ガントク郊外にある基地で訓練をしていた。ここは第11旅団戦闘団が駐屯していて、基地の数キロ圏内には隠匿されたレールガンの発射陣地があり、加えて、インド陸軍東部コマンドの駐留する基地も近くにあるらしい。つまりここは印中の最前線の1つ、ナトゥ・ラ峠の前線基地群というわけだ。
「気に入らない」
中隊規模の訓練を終えコックピットカバーを開けると、カトーは目の前にいる整備中隊に所属したセドリックに愚痴った。
「誰が?」
「大隊長」
「……ジェイコブ・ミラー中佐。『アクサイチンの悪魔』と言われたインド最強の呼び声高いエース。……相当変わり者だって聞くけど、やっぱりそうなんだ」
「変わり者?あぁそうかもな。確かに腕はいいだろうけど、ただ戦いたいだけみたいな人だ」
カトーは機体から降りて、角ばった装甲を持った自機を撫でた。
「まあそんな人もいるさ。それで、どう?機体に慣れた?」
「それなりには。素直に動いてくれるから動きやすい」
「そりゃあ動きやすいさ。なんたって
セドリックが“クシャトリア”の整備をしながら、上から答えた。
「操縦しやすいけど、器用貧乏な感じが否めないな」
「……まあそれは、そもそものヒューマーの運用思想が兵装換装の容易さをもって柔軟に戦況に対応することだからね。器用貧乏なくらいがちょうどいい。フィリピンで乗ってた“ガンキャリア”みたいな、現地改修された重装甲と反固定化された武装による防衛特化仕様のようにはいかないさ」
「ま、もっと使って慣れればいいだけさ」
カトーが全高7.5メートルの巨人に背を預けて呟く。
「違いないね。そういえば小隊のみんなの所に行かなくていいの?」
「5分後に集合なんだ。まだ大丈夫」
「仲良くしてる?」
「なんだそれ」カトーは笑った。「ちゃんとやってるよ。小隊長は同じ24だとは思えないよ。大隊長のとこで耐えてきただけはある。ウィルソン曹長はさすがとしか言いようがない。聞く話だと第1中隊最年長らしい。あの人には頭が上がらないよ。アドバイスが的確なんだ。ニック軍曹は──」
「カトー!!」
カトーを呼ぶ声がした。彼が声の方を向くと白い歯を見せて笑う青年がいた。ニックだ。つかつかと近寄りカトーの肩に腕を回した。
「さっきはすごかったな!ま、俺が切込まなかったら危なかったけどな!」
「突っ込んだ挙句、クロスファイアされそうになってたじゃないですか」
「ならなかったからいいじゃねぇか、俺は仲間を信じてるからな」
「いや、あれはさすがに突っ込みすぎだよ。せめてどちらかの射線を切るべきだった」
渋い声の方を3人が向くとウィルソンがこちらに歩いてくるところだった。立ち止まると腕を腰に当て2人を見た。
「お疲れさん」ウィルソンは上で作業をしているセドリックにも声をかけた。「セドリック君もお疲れ。整備大変だろう、カトーは物陰に隠れるときに背面を武器ごと強くぶつけがちだからバックパック横のハードポイントの接合部がよく痛む」
「え?あ、ご心配ありがとうございます、曹長。もう名前も覚えていただいてるとは。大丈夫ですよ、むしろやりがいがあって楽しいです」
「そりゃあ、良かったよ。まだ慣れないだろうけど頑張ってくれ。さて、2人ともそろそろ行こうか。隊長が待ってる」
「はい」
「うす」
セドリックに別れを告げ、3人はミーティングルームへ向かった。集合1分前だったが隊長はすでにそこにいた。
「アンシュ中尉。第1中隊c小隊、全員揃いました」
ウィルソンが告げる。アンシュが3人の方を向いた。
「ありがとう。訓練の後だから確認したいところはあると思うけど、それは後にしておいてくれ。大事な話があるんだ。端的にいえば12月30日から、陸海空全戦線において大規模な攻勢が行われる。主目標は中国の海南島奪取。海南島は中国海軍最大の基地を有していて、ここを落とせば敵海軍を陸から閉め出せる。海軍に至っては西沙諸島攻略から始まるわけだけど僕たちには関係ない。僕たちは僕たちだけの戦争を考えればいい。第11旅団戦闘団はナトゥ・ラ峠から中国に侵入。30キロ進出して中国の前線基地を叩く。この基地には未確認の人型兵器が配備されていると言われていて、それを優先的に破壊せよとのことだ。詳しくはこれを。目を通しておいて」
アンシュは机に置いてあった資料を3人に手渡した。分厚さはそこまでなかったが、内容が詰まっているというのは文字の大きさで分かった。
「それに際して中隊内で小隊同士での実機訓練をするらしい。……相手はa小隊」
場に緊張感が走った。
「a小隊⁉︎冗談きついですよ、隊長」
ニックが驚きを隠さず言った。
「残念ながら冗談じゃない。ミラー大隊長が直々に加わったチャド准尉率いるa小隊と全力でぶつかる。ここの戦闘団最強の彼らとね」
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