#28 守るべき信念
食事を、説明会を終え、カトーとセドリックは船室に向かった。コンテナ船の定員を大きく上回る人数が乗っているため、ベッドなどのある船室は交代で使うこととなっていた。船室は綺麗ではあったが、中にはすでに何人かいて、また同時に何人も休めるよう備え付けのベッド以外にも簡易のものや寝袋が並べられていてそこは窮屈なものだった。
2人が自分たちのスペースを確保して休もうとしていたときに、ドアをノックされ2人は部屋の外に呼び出された。そこには右の頬に傷のある男が立っていた。ハリモーだ。
「話があるんだが、ここで話すのは他に迷惑がかかるから、外に出て話すそう。ついてきて」
ハリモーに続いて外に出ると、どこまでも青い海が広がっていた。遠くにはどこかの島がうっすらと見えていて、空と海の境目は見分けがつかなかった。
ハリモーは手すりに乗せた腕に体重を任せ、海を眺めていた。
「いい景色だろ、我々がなんとしても守らないといけない場所だ。言っても俺たちは陸軍だけどな。……君たちは何のために戦ってあるんだい?」
「えっと、僕はその、機械が、特にヒューマーが好きでその整備をして、乗る人もだけどいろんな人のためになったらいいなと思いまして…ってあれ?これは軍に入った理由か。はは……」
「いや、それで十分だ。誰かの役に立つため。それは整備士である君にとっての戦いの立派な理由になる。縁の下の力持ち。いいことじゃないか」とハリモーは、にこやかに言った。「それで君は?カトー」
カトーはハリモーの方を向いた。
「何で俺の名前を……いえ、なんでもないです」カトーは視線を海に戻した。しかしその目は海を見てはいなかった。「自分は、単純です。国の、いや、人のためですよ。俺は何度も人生を壊された人を見てきた。フィリピンが中国にやられたのがいい例ですよ。正しく生きてたつもりでも他の何かに突然壊されていく。だから俺は、他の何かを排除して誰かの正しさを守りぬくために戦うんです」
ハリモーはやや俯き、首元からネックレスを取り出した。そのネックレスには鳩のような飾りが付いていた。大事なものなのだろう、それをしばらく眺めたあと海を向いたまま口を開いた。
「……そうか。勇ましいね。いいことだと思うよ。その気持ちは多分、忘れちゃいけないものだ。ここまで聞いておいて自分が言わないのもあれだな。俺は平和のためさ。だからお守りの意も込めてこれを首にかけてるんだ。君たちも真似するといいかもね。首にかけてからは一度もたまに当たっていないよ。これはかける前のものだ」と頬の傷を指差した。「……さて、ちょっとだけ親交を深めたところで、本題だ。もちろんさっきの話は本題とは関係ない。それでその内容についてだが、君たちはS.A.T.O 第11旅団戦闘団の装甲歩兵大隊に転属されることになった。そこの大隊長は変わり者だがとても優秀と聞く。そこでも戦う理由を見失わず頑張ってくれ。行き先の港で担当と変わるから、よろしく伝えといて」ハリモーは2人の反応を気にせずまとめていったあと、こう付け加えた。「君たちが優秀なのはわかるけど、どうして俺とか特殊部隊を編入させないんだろう。いや、君たちには関係ないね。じゃ、俺は先に戻るよ。何か質問は?」
2人は呆然としたまま首を横に振った。
「じゃあ、先戻ってるよ。頑張ってね」
ハリモーは手を振ってさっさと中に戻ってしまった。2人は顔を見合わせてキョトンとしていた。
「えーと」セドリックが混乱しながらもなんとか声を出す。「よくわからないけどこれからもよろしく」
「こ、こちらこそ」
新婚かよ、とカトーは思ったが口には出さないことにした。
船はそんなやりとりなど構いもせず、着々と広大な海を渡っていく。
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