#23 南沙諸島海戦、惨劇
「敵の第3波攻撃、来ます!西南方向より20発、
「ミサイルは西端より1番目標、東端は20番目標に再選定。魚雷は全て3桁目標に選定。7発でいい、西側10発のうち距離が近いものからミサイルで墜とせ。残りはCIWSとレーザーだ。東側は僚艦に連絡して堕とさせろ」
「2番から7番目標に向け、順次ミサイル発射。レーザー照射準備」
「魚雷撹乱用にデコイ射出」
「デコイ、射出します」
午前7時から始まった敵の一斉攻勢は、これまでの攻勢が遊びにも思えるほど苛烈なものだった。それもそのはず、
「味方フリゲート“王林”沈黙。現在オフラインです」
「艦橋より連絡、“王林”の被弾を目視にて確認。中央部に直撃した模様」
「救助は後回しだ。警戒を怠るな、フリゲートが全滅したということはその分艦隊防空能力が下がったと─」
突如、艦が大きく揺れた。私はなんとか倒れず踏みとどまった。警報が鳴り響き、狭いCICは音の溜まり場になった。
「被害区画は!?」
「ヘリコプター甲板が被弾しました!損害軽微。着弾時は無人だったため死傷者はありません」
「チョー、何による被害かわかるか」
チョーは迎撃指示の手を止め、質問に答えた。
「恐らく艦砲射撃によるものかと」
「やはりそうか」
通常火砲の射程圏内に入られているということはそれだけ敵が近くに来ているということ。……司令官殿によると絶対死守命令が出されているとのことだが、このままでは全滅する。そもそも、絶対死守命令が出されているのかも怪しいが……。
すると、思考を遮るには十分すぎる報告があった。
「“海口”が至近弾の影響で近接防御兵器がシステムエラー」
……まずい。ここで駆逐艦を失えば艦隊防空能力を持つのは“廊坊”だけ……。守りきれない。“海口”を死守しなければ。
「“海口”に向かうミサイルを迎撃できるか!?」
「間に合いません!」
味方の位置が映っているモニターパネルを見た。3つのミサイルが“海口”に向かっていき……
鈍い音がここにまで響いた。モニターパネルには“海口”は映っていなかった。換気装置は動いているはずだったが、CICの空気は重く呼吸のしにくいものになっていた。
「……“海口”からの通信途絶。残存する艦艇は空母“山東”、コルベット“吉安”、補給艦“千島湖”、そして駆逐艦“廊坊”のみです」
「……司令官と直接連絡を取らせろ」
「しかし、」
「やれ」
自分でその声に驚いた。今まで出したことのないような低い声だったからだ。
「チョー、一瞬指揮を頼む」
「分かりました」
連絡がついた、という報告がありヘッドセットを渡された。繋げました、と通信士が言った。
「司令官。今からでも遅くない、残る艦艇に地上部隊を収容し撤退するべきです」
「もう手遅れだ。ここで少しでも敵を食い止める」
冷たい声だった。もし本人が目の前にいれば助走をつけてでも殴りかかっていただろう。私は堪えていた言葉をすべて吐き出した。
「あんたはやっぱり馬鹿野郎だ!なにが『我々だけで十分だ』だ。最初から援軍を呼んでいれば負けなかったはずだ。しかしそれは机上の空論だ、もうどうだっていい。だがな、あんたが今やろうとしていることは味方を見殺しにするだけだ。人民解放軍は人民を解放するためのものだ。死ぬためにできたわけでもないし、兵士はあんたの手足じゃない。仲間だ。家族だ!自分の家族を見殺しにするような奴は中国人じゃない。人間じゃない。あんたは驕り高ぶった悪帝と同じだ」
荒く上がった息を、深く息を吸い整える。その間も向こうからの返答はない。
「……まだあんたにも良心が残っているはずだ。選べ。家族を救い未来を繋いで親孝行とするか、家族とともにあんたも海に沈むか」
返答があるまで数秒ほどの間があった。わたしにはそれが何時間にも感じた。
「……艦長。艦隊防空能力を持つ艦は“廊坊”だけだ。沈むまで味方を守り続けろ。いいか、これは命令だ。決して逆らうな。君は一度、上官に対し反旗を翻した。君の処遇は後で決める。もう一度言う。これは命令だ。沈むまで、撤退する味方を守り続けろ。以上だ」
ゆっくりとヘッドセットを外し、CICを見渡す。
「解放軍の同志たちよ、“廊坊”は撤退する味方のため、命運尽き果てるまで味方を守り通す」
ゆっくりと手を伸ばし、館内放送を入れ、マイクに顔を近づけた。
「命令だ。生き残れ」
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