#22 南沙諸島海戦、声明

 必死の抵抗も虚しく、会敵から2日後の9月5日には南沙諸島三角防衛区域スプラトリートライアングルの全3区域のうち、“ヴィシャル”艦隊によって西部区域ファイアリー・クロス礁基地が、別動艦隊によって東部区域ミスチーフ礁基地が陥落し、生き残った戦力は北部区域スビ礁基地まで後退していた。


 考えるべきことは数多くあった。今届いた最新の情報によるとこちらの残存戦力は空母1、駆逐艦2、フリゲート2、コルベット3、航空機27。会敵前の戦力の半数以上を失っていることになる。そして増援は見込めず、弾薬の補給もままならないまま、敵艦隊の総攻撃に備えなければならない。


 だが、ここに至るまでやられっぱなしだったわけではなかった。向こうのミサイル艇やフリゲートなどを何隻も沈めた。それに、向こうもまた弾薬の補給は間に合っていない、はずだ。なんとかなる。


 それにしても覚悟はしていたが想像以上だった。ここまでとは。会敵前、私は生き残ると言った。いままで有言は実行してきたつもりだった。しかしすでに、もう、我々は……。


 私は頭を振った。だめだ、恐らく疲れているのだろう。少しだけ、少しだけでいいから、もう一度、海を……。


「艦長。どこへ行くんです?戦闘配備中です。戦いはまだ終わっていませんよ」


 情報が飛び交うCICから、艦橋の様子を見てくると言って抜け出した私のことを待ち受けていたのはチョーだった。


「艦橋の様子を見てくる。それに、スビ礁の姿でも拝みたくてね」


「リー」


 一瞬だけ作り笑いを浮かべてチョーの脇を通り過ぎた私を再び呼び止める声。その声に対して私は立ち止まっただけで、振り返りはしなかった。


「艦橋へ行くあなたを止めはしません。あなたにだって使命から解放されて自由になりたいときがあるかもしれないし、本当にやるべきことがあるかもしれないから。でもCICからでも連絡できるにも関わらず艦橋へ行き、それが原因で対応が遅れ、この戦いで死ぬことがあるのならば。真の自由は手に入らない」


「何が言いたい」


「俺は生き残りますよ。ここで生き残って、必ず中国こきょうを救います」


 軍服越しの背中に熱い思いを感じた。気づけば私は軽く俯いていていて、固く無機質な床を見つめていた。


 顔を上げると灰色の扉があった。非常配備により閉められているその扉の奥にはいくつもの船室に繋がるいくつもの扉がつい通路がまっすぐと伸びているはずだった。しばらく扉を眺めたあとゆっくりと振り返ると、そこにはすでにチョーの姿はなかった。


 私は扉の前に立ち、扉と向かい合った。


「私は……第1空母艦隊所属、ミサイル駆逐艦“廊坊”の艦長だ。同志を、この海域にいる仲間を……自らと同志の能力が許す限り多く守り通す。チョー、私は今、ここに、再び誓ったぞ。私はやり遂げる」


 扉の裏で誰かが動いた気がした。


 私は目の前の、CICに繋がる扉を開けた。

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