#24 南沙諸島海戦、決着
「Y-22輸送機離陸。空母艦載機が直掩につきます。全地上要員の撤収を確認」
「了解した。本艦も回頭し撤退する。これ以上味方を沈ませるな」
戦闘開始から3時間後、午前10時過ぎに、輸送機による地上部隊の撤収を確認した残存艦隊も撤退を開始した。
撤退行動をした後も敵の追撃は続き、“廊坊”の対空ミサイルは底を尽きかけていた。空母艦載機に至っては、一個飛行隊しか残っていなかった。
「海南島の勢力圏内まであと10キロ」
航海士が報告した。あと少しだ。ここを耐えきらなければ味方が死ぬ。
「そうか。あと少しだ。耐えきるぞ。
「残り2発です。いけますかね?」
「密集陣形だ。最悪、個別防空システムで耐えきるぞ」
その言葉を待っていたかのように、敵による最後の攻撃が襲ってきた。
「ミサイル接近!微弱ながら機影も確認!」
何十回以上も聞いたその声は、今までのものより苦痛を伴っていたように感じた。
「何発だ?」
「8発です」
「一艦あたり2本か?ミサイルを撃ち切れ 絶対に撃ち漏らすな!正念場だぞ!」
“廊坊”による最後の抵抗が始まった。“廊坊”から放たれた2本のミサイルは1本はなんとか迎撃、1本は外れ、明後日の方角へ飛んでいった。艦隊の後方にいた“廊坊”は艦体を傾けた。艦尾方向にはレーザーを指向できないからだ。レーザーは迎撃を始めたが、それも万能ではない。
1発のミサイルが艦尾に命中し、“廊坊”は激しく揺れた。
「ミサイル命中!」
「ダメージコントロール!被害は!」
「スクリュープロペラ全壊、航行不能。艦内に浸水確認!」
再び爆発音と強い揺れ。立て続けに再び爆発音。
「再びミサイル命中、今度は艦首方向!艦砲誘爆を確認、浸水大!」
すまないな、“廊坊”。お前とはもう戦えないようだよ。ゆっくり休んでくれ。
「……みんな、よく戦った。現時刻を持って艦を放棄する。総員、退艦せよ」
一瞬の静寂ののち、CICにいた全員がぽつぽつと敬礼をこちらに向けてし始めた。私は同志を見渡し、敬礼を返した。
「行け」
私が静かに言うと、彼らはCICを小走りで後にした。私も出なければなるまい。
改めて退艦指示を出した後、私は、傾く艦内を、ゆっくりと、艦外に向かって歩き始めた。
退艦を確認した後、ボートに乗り込む。“廊坊”がゆっくりと、だが着実に沈んでいく。その奥には、他の艦も使命を全うしたのだろう、多くの煙が昇っていた。
私はそれらに向かって再び敬礼した。
……その数時間後、それぞれの艦から脱出した生存者たちは味方によって救助された。そのあと聞いた話によると、コルベット“吉安”のみが被弾しながらも生き延びたという。他は全て沈み、今に至る。“山東”も沈んだのだ。残念ながら司令官は生き残っていた。
スビ礁も奪還された。11時20分に、フィリピンが代表として奪還を宣言したらしい。
結果をまとめるとするならば、中国は、一個空母艦隊を含む
この戦いにおける死者数は分かっていない。分かっているのは1万5000人を越す軍人のうち4000人ほどしか帰らなかったということくらいだろう。
本土に戻ったあと、生き延びた司令官は減給を受けただけだった。1万人を殺しておいて。私は、謀反の疑いと、それと恐らく今までの態度のせいで、
……少し余計な話が入ったが、これが、南沙諸島海戦の真実、第1空母艦隊壊滅の真実だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます