#6 明日─①
「─切り抜けるぞ」
「……どうするつもりだよ。メインカメラもやられたし、なんだったら脚を少しやられているから機動力が低くなって逃げることもできない」
「俺が今からハッチを開けて外の様子を見る。俺が指示を出すからそれでお前は機体を動かせ。ブルー2のところまでいけたら俺たちの勝ちだ。お前ならサブカメラで足元くらい確認しながらいけるだろ」
リアンは、はっとした。忘れていたのだ。自分が生き残ることに必死なあまり、ブルー2のことを。
「でも─」
リアンが不安を口にしようとしたときにはロンはハッチから上半身を出していた。
「行くぞ!とりあえず四時方向に向かってくれ」
迷っている時間はない。リアンは額を拭い、操縦桿をしっかり握って前に倒した。
一機のアフランニクは、ブルー3は敵に牽制射撃をしつつ、舞うように、ベトナムの密林を、木々の隙間を駆け抜ける。それは、ロンの指示とリアンの操縦技術の賜物であった。
「針路修正、一時方向。牽制射撃、二時方向」
指示通りに牽制射撃を加える。そのとき、機体の右腕、肘から先がちぎれた。撃たれたのだ。
「うお!」
身を乗り出していたロンが、驚いた声とともに中に落ちてきて、イスに尻餅をついた。
「大丈夫⁉︎」
「三時方向だ!」
目を見開きロンが叫んだ。
「え?」
リアンがとぼけたような声を出したが、とっさにそちらから影になるように隠れていた。
直前までいた場所に
「やば……」
リアンは呆然としつつ、そう呟いた。敵に近接武器の間合いまで近づかれていた。その事実が彼を、いや彼ら二人を戦慄させた。
「ロン、頼める?あいつから距離をとってブルー2に狙撃してもらいたい」
リアンはなんとか理性を取り戻し、早口にまくし立てた。すでにブルー3は武器を失っている。
「わかった」
そう言って彼はもう一度外に上半身を出した。
敵はすでに次の攻撃に移ろうとしていた。密林でも取り回しの効くように柄が短く、軽装甲部分を貫通できるよう刃が尖った
「リアン、敵に背を向けていいから後ろは俺に任せて木の陰を縫うように走って時間を稼いでくれ。ブルー2、こちらを視認できるか。……了解した。リアン!そのまま直進してくれ」
「わかった!」
まだ敵は追ってきている。引きつけてこいつを引き剥がす。リアンはそのことしか頭になかった。どんなに優秀でも、機転がきいたとしても、彼が今まで実戦を経験したことのない新兵であることには変わりがなかった。
敵は一人ではない。
通り過ぎた木が爆発し、爆風でブルー3は吹き飛ばされ、機体は横倒しになった。
リアンは打った頭を押さえながら、すぐに他に怪我がないことと機体の状態を確認した。脚はまだ動くがたかが知れている。……ロンは?
彼は後ろを振り返った。そこにロンはいなかった。
「ロン!」
リアンは叫んだ。こんなところで死なせてたまるか。その思いから出た言葉だった。
「おい、俺はまだ生きてるぞ」
ロンが中に入ってきた。どうやら一度外に投げ出されたらしい。そのときに肋骨をやられたのか脇腹のあたりを押さえていた。それだけでなく彼は身体中傷だらけであった。
「それと、あいつがきたぞ」
機体を起こすと、目の前に先ほどの機体がいた。それは大きく腕を振りかぶっていた。先ほどから隙が大きいがとどめを刺すつもりらしい。残念ながらブルー2にそれを回避する術はなかった。
「リアン、一緒に戦ってくれてありがとな。短い間だったがお前と組めてよかったぜ」
ロンは口角を上げてそう言った。
「ロン、こちらこそありがとう。でも僕はまだ死ぬつもりはないよ」
体の震えは止まっていた。不思議と呼吸は落ち着いていて、無理とわかっていてもどこからか力がみなぎってきた。操縦桿を握る。
敵は勢いよく振り下ろした。いや、振り下ろそうとした。だができなかった。頭が吹き飛ばされ、胴にも穴が開く。そして後ろに倒れこんだ。
「ブルー2、よくやったな。ありがとう」
ロンが腑抜けた声で言った。
「いや、違う。外したもの」
「え?」
ロンが疑問に思ったそのとき無線に自分たちの小隊の声ではない声が混ざった。
「こちら212中隊。現場に到着。敵の掃討にはいる。ブルー小隊、よく持ちこたえたな。あとは我々に任せてくれ」
リアンとロンは顔を見合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます