#7 明日─②
それからどうなったのかは、リアンはあまり覚えていなかった。気付いた時にはもう基地に着いていた。どうやって帰ってきたのかすらも曖昧であったが、近くにロン達小隊の仲間がいたことだけは覚えていた。
ロンは基地に着くやいなや医務室に連れてかれた。もしかしたら備え付けの病院だったかもしれないが、とにかく治療を受けに連れていかれた。
リアン達が乗っていたブルー3もそうだが、ブルー2、ギア達が乗っていた機体も大破状態だった。どうやら最後の狙撃を頼んだ時点で片腕と脚を動かすのでやっとだったらしい。
そして、ダッド達は、ブルー1に乗っていた彼らは見つからなかった。密林で肉片を探すのは、カーペットに落ちた小麦粉を集めるかのように至難の技であった。彼らの捜索は中断され(その場所が地上戦の最前線であることと、爆散したため生存が絶望的であると判断されたためだ)、この戦争の地上戦、ベトナム側のファーストブラッドとして扱われた。
数日後、食堂にリアンとロンの姿があった。
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
リアンが湿布にまみれたロンの顔を覗き込んだ。
「大丈夫。まだあちこち痛むけどな」
戦う前の調子に戻ったロンが笑いながら答えた。
「ならいいんだけど……」
リアンがボソボソと言う。
「なんだ?どうしたんだよ」
「え?あ、いや、あれだよ。ありがとね、助けてくれて」
リアンがロンの顔を見て微笑む。
「なんだよ急に。こっちこそありがとな。隊長達がやられたとき、真っ先に冷静になって俺たちの頭冷やしてくれたんだから」
「もうダメだと思ったときに、作戦考えて急に指揮しはじめてみんなを助けてくれた。かっこよかったよ、いつもと違って」
「具体的に言われると照れるなぁ、ははは……って、なんだよ!いつもはかっこよくないってか?」
ロンがリアンの髪をもみくちゃにした。
「いっつもあんな感じなら頼り甲斐があっていいんだけどなあ」
リアンが意地悪そうな顔を浮かべて言う。
「うっせ。俺は普通こーいう奴なの。いい加減慣れろよ」
ロンが、ふんと言って微笑む。
「なんだっけ、『リアン、一緒に戦ってくれてありがとな。短い間だったがお前と組めてよかったぜ』だっけ。キザなこと言うよねロンも」
「あ!そんなことに限ってよく覚えてるな、お前は。あんときは本当に死ぬかと思ったんだよ。そりゃあんなことの一つ言いたくなるだろ」
ロンは耳を赤く染めた。
「ま、こいつとまだ一緒に戦いたいって思えたからいいってことで」
リアンがコップに入った水をあおった。
「お?おう。そりゃいいことだ?」
ロンは狐につままれたような顔をしてリアンを見た。
その後、二人は訓練のため外に出た。彼らの前には今、やられたものとは違う『アフランニク』があった。
帰ってきたあとに聞いた話だったのだが、どうやら上の方々は新兵に偵察兵をやらせて最前線に置くことで敵の第一波の侵攻を遅らせるつもりだったらしい。つまり、リアンたちは捨て駒だったのだ。だが、捨て駒として使われたのにもかかわらず生き残ったのだから、しぶとく生きてやる、とリアンは思った。
「ロン」
リアンが、朝日に輝く機体を見つめながら呼びかけた。
「なんだ?」
リアンの左側にいるロンが、同じく機体を見つめて答える。
「僕たちの実力を見せつけてやろうぜ。祖国とダッドさんたちのためにも」
リアンは微笑み、そして右手を肩の高さまで上げた。
ロンは少しの間ののちに答えた。
「ああ、やってやろうぜ。そして生き残ってまた明日も明後日も一緒に戦うぞ」
二人は拳を突き合わせた。
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