#5 憤怒─②
「いや、大丈夫。連絡はつくぞ。短距離通信はできるからブルー2に連絡を取ってもらう」
深呼吸をしたのち、ロンが淡々とした口調で言った。今までの声を荒げるような様子とは大違いだ。リアンは彼が徐々にこの状況に馴染みはじめているように感じた。まるで、この命のやり取りが行われる緊迫した状況に溶け込むかのように。
「そっちの方は任せたよ!」
リアンは操縦を担当しているため、自身が他の機体とやりとりをしている余裕は無かった。演習ではそこまで感じなかったが、現在置かれている実戦という環境下において、素早く動きながらもモニターをチェックし、ロックオンし、引き金を引くという、生き残るための行為全てがいかに大変かというのを痛いほど感じていた。
そして単座式のヒューマーではないことを幸運に思った。これで、他の機体との通信やロックオンなどについて考えていたらすでに死んでいただろう。そう思うと、単座機であろう敵のヒューマーに乗っているパイロットは尊敬に値する。
そして、自分がこうして目の前のことに集中できるのもロンが全力でサポート出来ているからで、ロンのことももちろん尊敬している。
ロンが現在行なっていることは大きく3つだ。
1つは機体管理。これはダメージコントロールはもちろん先ほどやられた通信設備等の復旧も含まれる。
2つ目は操縦支援。支援といっても操縦を手伝うわけではない。兵装の換装、そして全体の敵位置の把握と報告だ。
3つ目は先ほどから行なっているデータリンク。つまり、通信士の役割を担っている。
彼は黙々とやりとりを続けた。そしてついに基地と連絡を取ることに成功した。
「喜べリアン!あと5分だ。5分耐えれば増援が到着するぞ!」
ロンが歓喜の声をあげたとき、激しい破裂音とともに二人の視界はホワイトアウトした。
まずい、まさか、とリアンは焦った。そしてその彼の不安は的中した。メインカメラが、頭部が被弾したのだ。頭でっかちと言われる機体で比較的近距離でのせんとうをしていたにもかかわらず今まで頭に当たらず、数十分耐えたのは奇跡とも言えるのだが。
「や、やばい」
リアンは思わず呟き、急いで機体を敵の射線から外した。
リアンは考えを巡らす。メインカメラがやられた。加えてセンサー類も吹き飛んだ。一応サブカメラがあるが、その視界なんてたかが知れている。短機関銃の照準用カメラを接続するか?いや、そんなことをしている余裕はないだろう。だがこのままではろくに敵の位置も分からずに撃破されてしまう。どうする?どうする?
鼓動が早くなり、呼吸も浅く、早いものになっていく。額を汗が伝い、背中が氷でも当てられたかのような不快感に襲われる。
どうすれば生き延びられる?ふと、彼の頭にある考えが浮かぶ。いや、それは考えと呼ぶのは不正確なものかもしれない。彼の脳裏に浮かんだもの、それは『死』であった。
今まで考えないようにしてきた死。幼き自分から父を奪った死。隊長たちの命を奪った死。そして自分たちが敵にもたらした死。死にたがりなのかもしれない自分に死が、あるいは心のどこかで望んでいたのかもしれないそれが近づいてきたのだ。やっと、やっと父さんに近づける。
操縦桿を握り締める。最後くらい華やかに散ろう。ロンも言っていたじゃないか。こうやって死ねるなら本望だと。
頰を何かが伝う。それがなんなのかはすでに彼にとってはどうでもいいことだった。
敵が着実に近づいてきているのを感じる。たくさんのヒューマーの足音。そして何かが自分の名前を呼んでいる。これが『死』というものなのだろう。そうやって人を死に導く。
「……リアン、聞いてるか?大丈夫か。俺たちはまだ死んでない。この場を切り抜けるぞ」
……あれ、ロン?何かに取り憑かれたような顔を、薄ら笑いすら浮かんでいたリアンに声をかけたのは他ならぬロンであった。
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