12/25 サンタ不法侵入記者会見のようす

ちびまるフォイ

わ た し で す ^o^

「えーー、それではサンタさん会見を始めたいと思います」


会場に赤い服と白いひげのサンタがそりでやってくると、

記者たちはメモを構え、写真を撮り始める。


「みなさん、この度はお騒がせして本当にすみません」


「家宅不法侵入なんじゃないですか!?」

「どうやって住所調べ上げてるんですか!」

「どうしてあんなに配達できるんですか!」


「し、質問はひとつずつお願いします!」


サンタは「ホーホーホウ」などとフクロウのような

余裕ある笑い声をあげられるような状況じゃないことを悟った。


「まず、プレゼントを配るという行為について

 ご自身はどう考えているんですか!」


「そ、それはサンタとして自信を持って、

 子どもたちのプレゼントを届けていると自負しています」


「寝ている子供の寝床に行って、プレゼントを置く。

 これって家宅不法侵入ですよね?」


「本当は寝ている子供になにかしてるんじゃないのか!?」


「し、してませんよ!」


「だったら、玄関前にでも置けばいいじゃないですか」


「子供が目を覚ましたときに、

 真っ先に気づいて喜んでもらいたいんですよ」


サンタは必死に説明するが記者たちは不満顔をしている。

なんらかスキャンダラスなネタがないと雑誌が売れない。


「クリスマス以外はなにしてるんですか」

「それは……」


「不法侵入の点はどうお考えですか?」


週刊サーズデイの敏腕記者はなおも追求の手を緩めない。


「げ、現代の法律的にはそうかもしれませんが……

 我々としてもプレゼントを運ぶという目的もありますし」


「つまり、子どもたちの夢を叶えるためには治外法権だとでも?

 消防車が歩道で人をひきながら走行してもいいんですね?」


「そうは言ってませんが……」

「法律を軽視しているのは事実でしょう」


「し、質問を変えませんか?」


サンタは真冬なのに体に汗が流れ始める。

すでに会見は拷問へと変わっていた。


「いいでしょう。この時期ちまたであふれかえる

 エセサンタについてはどうお考えでしょうか」


「ああ、チキンを売るときに出てくる偽物ですね。

 夢を与えるはずのサンタがお金を搾取することについて

 我々としても心を痛めています」


「具体的には?」

「遺憾に思っています」


「それだけ?」

「え、ええ? それ以上あるんですか?」


「あなたはエセサンタ達の存在について遺憾に思いながらも

 だからといって何をするでもなく放置して

 より自体の悪質化を招いていたとは言えませんか?」


「そんな! 我々は夢を与える存在であって、

 誰かの自由を奪うわけにはいかないと……」


「海賊版が出回っているのに見て見ぬふりをしているだけですか。

 それはサンタとしての資質を疑います」


「き、君にサンタの何がわかるんだ!」


記者は「しめた」と心の中でガッツポーズを取った。

これまでの高圧的な追求はすべてサンタの感情を引き出すためのものだった。


すでにサンタはプライドを傷つけられて冷静な判断ができない。

いつトナカイのアクセルとブレーキを踏み間違えてもおかしくないほどに。


「声を荒げるなんて子供が怯えてしまいますよ。

 やっぱりあなたにサンタの資質はなさそうですね」


「私はね! このサンタとしての活動にほこりを持ってやっている!

 子供の喜ぶ顔を見たくて、実際には見れないけども!

 それでも一生懸命にっ……ハァー!! やってる゛ん゛です!!

 あなたには! ワカラナイデショウネェ!!!!」



「おっ、落ち着いてください、サンタさん!」


「はい。落ち着きました。もういいです」

「急に!?」


サンタの顔色は血の気が引いて、皮膚がひげと同じ色になってしまった。


「辞めます」

「え?」


「サンタ辞めます」


「えっ」


「もういいやって思いました。

 なんでこんなにいっぱい世界の人に毎日配って、

 それなのにこんなに怒られなくちゃいけないんですか」


「いやそれは……ねぇ?」


「ドローンとかもあるんでしょ? 誰かがそれで配ってくださいよ。

 『わぁ~ドローンからプレゼントが届いたぁ』って。

 子供が喜ぶんでしょ? もうそれでいいじゃないか」


「なんだこのやさぐれジジイ……」


「あーーもーーやる気なくしたぁーー!

 もう絶対配らないから! お前らが土下座するまで動かないからーー!」


サンタは怒って会場を出ようとする。

記者はこの逆ギレも記事になると心の中でほくそ笑んだ。


(誰が土下座なんてするものか!)


真っ赤な帽子のサンタさんをみんなの笑いものにしてやる、と。

そのとき、ひとりの記者が空気を読まずに手を上げた。


「あの、最後にひとつ聞いてもいいですか?」


サンタは足を止めて振り返った。


「サンタさんはクリスマス以外は何をしてるんですか!?」


サンタは静かに答えた。



「アマゾンってあるでしょう? あれ、ぜんぶ私です。

 クリスマス以外はそうやって配達してます」



翌日のニュースには全記者がその場に土下座して

サンタさんの引退を阻止する様子が映し出された。

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