全力
「一目惚れしました!好きです!付き合ってくださいっ!」
「ごめんなさい」
このやり取りも、今日でもう9回目、か……
でも……!
諦めない!
俺の運命の出会いはちょうど3ヶ月前。
桜舞い散る季節。
彼女は突然現れた。
……つまり転校してきたという訳だが。
俺は一目惚れした。
長い黒髪が風になびき、長いまつ毛、大きい目、少しピンク色の唇、卵形の顔、そして、弾ける眩しさを放つ笑顔。
俺は全てが好きになった。
気づいた時には……
「一目惚れしました!好きです!付き合ってくださいっ!」
……と、言っていた訳で。
そんなこんなで彼女へのアプローチが始まった。
登校してすぐ、彼女への挨拶は忘れない。
転校初日の告白がなかったことにされてるらしく、いつも変わらない笑顔で挨拶を返してくれる。
授業終わりと授業が始まる間の休憩中は彼女に積極的に話にいく。
彼女の周りは常に2.3人の女子がいるため、割と困難。
だけど諦めない。
暑ぐるしくないように、自然と……なんて出来るわけがなく……。
ガンガンいくのが俺の性格だったから、嫌な顔をされるのが当たり前で……。
彼女はともかく、周りの女子から罵詈雑言の嵐……。
そして毎週金曜の放課後。
彼女に告白をする。
毎日告白したかったが、さすがに暑ぐるしすぎる気がしてやめた。
彼女は少し嫌な顔をするが、ちゃんと来てくれる。
それだけで少し、救われた気分になる。
「一目惚れしました!好きです!付き合ってくださいっ!」
告白の言葉は初めの告白と変わらない。
「ごめんなさい」
……ちなみに返事も変わらない。
それがもう、9回も続いている。
……もはや慣れてしまった気がする。
彼女もあんまり嫌な顔をしなくなった。
楽しんでくれているなら幸いだ。
……いや、俺にとっては大事なことなんだが。
そして、今日。
記念すべき?10回目の告白の日だ。
今日もまた、放課後に彼女を屋上に呼んだ。
少し生暖かい風になびくその長い黒髪が今日も綺麗だ。
彼女はしっかりと僕の目を見てくれる。
それも、初めての告白の時から変わらない。
「一目惚れしました!好きです!付き合ってくださいっ!」
全力の告白を、今日もする。
「今日で、もう……10回目、だね」
「っ!」
数えててくれたのか。
心の奥底から喜びがふつふつと湧き上がるのを感じる。
「あ、あぁ、そうなるかな」
告白の時に会話したのは、これが初めて。
「君は、いつも全力で告白してくれるね」
彼女は笑って、俺の目を見てくれている。
「いつでも全力、それが俺の性格だから!」
俺は自信を持って言った。
それが自分のいいところだと思っていたから。
「じゃあ……私も全力で答えなきゃいけないね……」
……今までは軽くあしらわれていたのか。
少し悲しくなったが、その通りか、と思って開き直った。
「もう1回、告白してくれる?」
彼女の笑顔は、いつもの笑顔じゃなかった。
少し哀愁漂う、悲しい笑顔。
「わかった」
それでも……。
俺は変わらない告白を、する。
「一目惚れしました!好きです!付き合ってくださいっ!」
「ごめんなさい。好きな人がいるので無理です。」
それはいつもの告白の返事と違った。
そして、彼女は笑っていなかった。
真顔で、俺を見ていた。
……あぁ、本当にダメなんだな、と察した。
「告白、ありがとう。君との日々、楽しかったの。告白も気づいたら嫌だと感じなくなった。でも、告白って勇気がいることだから……。私が告白しようと想像しただけで、すごい緊張して、心臓のドキドキが止まらなくて。だから、君に失礼だと思ったの。そして……今日で、おしまい。」
涙は、出なかった。
悪いのは、俺だ。
だから……
「いや、いいんだ。全力で告白して、全力で答えてくれたなら、それで。告白だって、自己満足だったかもしれないし。それでも、後悔はしてないんだ。好きなんだから。好きって多分、そういうものだから。だから、おしまいになんて、しない。また俺は、告白する。好きな人がいても、付き合ってても、それでも。それだけ、好きだから。」
「ありがとう。……でも、告白やめないって、それ、呼ばれる私はめんどくさいよ?」
「いいんだ、来なくても。嫌われることをしているのは分かっているから。……ただ、俺が後悔しないように、今やりたいことを、やっているだけだからさ」
「……うん。わかった」
そして彼女は去っていく。
この光景も10回目。
でも……。
彼女はこちらを向いて……
「ぜったいっ!つきあわないからぁぁっ!!」
初めて彼女が大きな声を出した。
満面の笑みで、叫んだ。
「ぜったいっ!あきらめないからぁぁっ!!」
俺も負けじと大きな声を出した。
きっと俺も、笑っていたと思う。
何事も全力で。
後悔しないように。
俺はこれからも、告白し続ける。
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