この花の花言葉は、「初恋」

この花を彼にプレゼントしても、きっと伝わらない。

それでも、私は……。


これしか、ないから……。



俺はふと、目の前の花屋の前で立ち止まった。

花屋を見るといつも思い出す。

高校生の時にもらった、花たちを……。



10年くらい前の高校生の時、仲の良い女の子から花をもらったことがある。

週に1回、必ず花をプレゼントしてくれた。

それが約3ヶ月続き……つまり、9つの花をもらった。

それは季節の花から、定番のものまで様々。

俺はあまり花に興味はなかったけど、花を見て綺麗だなとは思っていたから悪い気はしなかった。

花の種類は花をくれた女の子が詳しく説明してくれたから覚えている。


確か……


黄色いゼラニウムから始まって……


白色のツツジ


リナリア


パンジー


ペチュニア


プリムラ


ワスレナグサ


ハナミズキ


そして、アイビー


だったはず……。

そして彼女は何も言わず、突然転校してしまった。

花が似合う、かわいい女の子だったから、悲しかったのを覚えている。


この花の順番、何か規則性でもあるのだろうか……。

縦にして呼んでもごちゃごちゃだし……。

最初のゼラニウムとツツジは特に色をうるさく言ってた気がする。

どうしても気になった俺は、目の前の花屋に入ってみることにした。

花を見てたら何か分かるかもしれないと思ったから……。

俺は花屋を一周したが、得に思いつくようなことは無かった。

ここは花のプロに聞くべき、か……。

花を手入れしていた女性の方に俺は声を掛けた。


「突然すいません。この花の名前を見て、何か分かることありませんか?昔、この順番で花をもらったことがあって、なにか意味があるのかなと……」

「うーーーん……、わたし、アルバイトなんであんまり詳しくなくて……ちょっと店長に聞いてきますね」

「すいません、ありがとうございます」


「店長」

「ん?どうしたの?」

「あのお客様が、この花の順番と名前を見て、なにか意味がないかって……」

「どれどれ…………………えっ……」

「店長?どうかしたんですか?」

「……今から言う言葉を、あのお客様に伝えて?あと、この花はサービスだって言って、あげてきてくれる?」

「わ、分かりました……。店長が直接伝えなくていいんですか?何か思い出したような顔してましたけど……」

「私は……ちょっと今手が離せなくてね……おねがいね」

「……分かりました!伝えてきますね」

「ありがとう」


5分程経った。

アルバイトの子が白い花を持って、帰ってきた。

「お客様、意味、わかりました。」

「わかった、ということは意味があった、ということですか?」

「そうです。ちゃんと意味がありましたよ。それもお客様が後悔するような意味が。」

「後悔……?」

「はい、この花の花言葉を聞けば、きっとわかります」

「花言葉……」

「いいですか?言いますよ?」


黄色いゼラニウムの花言葉は、予期せぬ出会い

白いツツジの花言葉は、初恋

リナリアの花言葉は、この恋に気づいて

パンジーの花言葉は、私を思って

ペチュニアの花言葉は、あなたと一緒なら心がやわらぐ

プリムラの花言葉は、青春の始まりと悲しみ

ワスレナグサの花言葉は、私を忘れないで

ハナミズキの花言葉は、私の想いを受けてください

アイビーの花言葉は、永遠の愛


「ここからは私個人のよそうなんですが……つまり、勝手に文にするとですね……、『あなたと出会って、初恋をしました。この恋に気づいて欲しいくらい、あなたのことを思っています。でも……青春は終わり。私はいなくなるけど忘れないで欲しい。これが最後になるから、私の思いを受けて欲しい。愛してる。』って、感じですかね……」


俺は……自然と涙を流していた。

こんな意味があったなんて……。

彼女は彼女なりに精一杯、花を選んで俺にくれたのか……。

俺は、何も言えなかった。


「お客様?お客様ー。聞いてますか?……だから後悔するって言ったじゃないですか」

「……あぁ、ごめん。涙なんか流したりして……。つい……。」

「気持ち、わかりますよ。随分と好かれてたみたいですね。」

「あぁ、そうらしい。惜しいもんだな。」

「あ、あとこの花、店長からプレゼントしてって言われましたので。」

「あぁ、花の謎を解いてくれただけでなく花も貰うなんてなんだか申し訳ないな……。」

「ちなみにですね、お客様。その白いカーネーションの花言葉、知ってますか?」

「いや……知らないが……。」

「聞いて驚かないでくださいよ?これは……」


この白いカーネーションの花言葉は、私の愛は生きています。


「ですよ」

「えっ……」

「何ぼーっとしてるんですか、言うこと、ありますよね?」

「あ、あぁ、店長!店長を呼んでくれ!」

「わかりました、呼んできますね」

「すまない……」


「店長、呼んできましたよ」

「あ、あの!もしかして……!」

「はい、私は…………あの子の、母親です。」

「っ!」

「少し、奥で話しませんか……?」


「あの子は、昔から病気だったんです。治らない、重い病気。余命宣告もされてました……。それでも、娘は、最後まで高校に通いたいと、そう……言ったんです。娘は昔から花が好きでした。それと同じくらい、きっと、あなたのことが、好きだったんですね……。最後まではっきりと、恋をした、とは言わなかったけれど、娘の最後の笑顔は幸せであったことを表してました。その白いカーネーションは、娘に頼まれたものです。『いつか、彼が来てくれたら、渡してくれ、と。私の想いはずっと、変わらないから』って……」


あぁ……俺は……。

何も出来なかった、何も出来ない自分自身を責めるしか……。


「娘は、自分自身を責めて欲しい訳では無いと思いますよ。はっきりと言葉に出来なかったせいでもありますからね……。それでも……あっ、なら、娘に花を、贈ってくれませんか?あの子もきっと、喜ぶと思います」


そして俺は、彼女に、花を送った。

それは、黄色のスターチス。

教えてもらった花言葉は、「途絶えぬ記憶」、そして、「愛の喜び」

その花は小さく、目立たないが、それでも確かな輝きがある。

彼女らしさがその花にはあった。

俺は、決して忘れない。

忘れてはいけない。


だから俺も、きっと……。


いつか、幸せな恋が、できるだろうか……。

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