第3話 第二章
警察本部地下駐車場で、二人は自動運転車に乗り込んだ。広々とした車内に、ジュリーは艶かしい腿を、誇らしげに投げ出してみせた。
トムはその姿をカメラでしげしげと観察すると、ピンクの下着が覗いているジュリーのスカートの端を摘み整えた。
「どうしてそんなに露出するんですか? 貴女は素でも十分に魅力的な美貌をお持ちなのに」
素っ気ないトムの問いに、待ってましたと言う様にジュリーの口角が悪戯っぽく上がる。
「年齢固定化の所為かしらね。現代は見た目で中身が判断できない時代よ、あたしは四年飛び級で大学に入学し、六年通ったからまだ二十歳の小娘なの。まだ子供なの。少しくらいハッチャケてもいいでしょ?」嘲笑するかのようにくすくすと笑う彼女の予想通り、トムは気にも掛けていない様子だ。
「確かに人間の年齢はわかりませんね。容姿と実年齢が合致している貴女が珍しいくらいです」
ジュリーは窓に映る景色へ顔を向けて、「そう。街を御覧なさい。数少ない人間達は皆、若い麗人ばかり。野生の魅力をアピールしていも、中身はよくて中年。殆どは老人のセックスアニマルよ。それに比べてストイックなロボットの方がよっぽどダンディじゃなくて?」そう嘯く。
「それは皮肉ですよね? 貴女は無機質なロボットでさえも魅了する自分を誇示しています」
「貴方こそ、人間を口説くのに何か意味があるの?」
ジュリーは退屈げに体をくねらせ伸びをする。その妖艶な動きで、しなやかな肢体が着衣からこぼれ白日の下へと晒されている。
「それは簡単な質問です。人間との信頼関係を結ぶにあたって、女性を口説けるくらいの話術は必要なのです。事務ロボットにとっては常識です」
「それじゃあ貴方、随分と女性を泣かせてるんじゃない? これで逞しく立派な肉体があれば女はコロリと騙されそう」
「まさか。貴方ほど魅力ある女性なんてそうは居ませんよ」
ジュリーは前方を見詰めるトムの顔を覗きこんだ。
「驚いた! ロボットに口説かれたのは初めてだわ!」
ワザとらしくジュリーはおどけてみせる。
前方を向いたまま、視線だけをジュリーに向け、トムは窘めた。
「安物の論理回路なら焼き切ってしまう事でしょう。魅力的な女性はどうぞ、背中にもお気をつけ下さい」
「背中はあたし専用のナイトに任せるわ。ファスナーを下げるのもお手の物でしょうから」
車窓を眺めていたジュリーが訝しげに訊ねる。
「道が違うわね?」
「今、向かっているのはアンドロイドのリサイクル工場です。私もその工場で解体される予定だったのです」
興味なさげにジュリーは伸びをして答える。
「そう。ロボットの墓場って所か」
「どうでしょう。天国への入り口かもしれませんよ?」
「ロボットのクセに天国を信じてるって? トム、貴方本当に興味深いロボットだわ」
「私もです。神は、神に似せ人間を作った。人間は人間に似せてロボットを作った。ですよね?」
ジュリーの翠眼が大きく見開かれる。
「急にどうしたの!? 宗教にでも目覚めた? それとも哲学かしら」
「流石に人間の宗教は学んではいませんよ。必要ならダウンロードしますが」
「結構よ。それじゃあ哲学で。もしトム、貴方が人間を殺すとしたらどんな時?」
「仕事の話ですね。保護プログラムが作動しますから実行不可能です」
「じゃあ、保護プログラム、所謂ロボット三原則が壊れていたとしたら?」
「それも有り得ません。全てのプログラムの上位に位置するのが三原則ですから。機能停止してしまう」
「でも、容疑者のアンドロイドは機能停止していたのでしょう? 壊れていたから停止した。そう考えるのが合理的じゃなくて?」
「それでは、容疑者は被害者を殺害してから機能を停止した事になりますよ?」
ジュリーはシートに寝そべったまま、体を捩り、美しく若々しい顔をトム向けると頬杖をつく。
「そこなのよ。何故、被疑者のロボットは被害者を殺害してから機能を停止したのか? この謎が解けなければ、現行のロボットの危険性を排除できないわ」
「新しいセーフティが必要になりますね?」
「そう。ロボットの運用に大きな制限が加えられる。危険に備えて爆弾を仕掛けなければいけなくなる」
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