魔獣の敵(10)
疑わしきと断じられた冒険者の捕縛が続く中、ラウディから降りた相棒が走り寄ってきて抱き付く。
お互いに厄介な状況だったが、まあこんなもんだ。心配しなくたってお前を苦しませるようなことはしないって。
ファーマンの発言を否定する言葉を重ねてくるが、丸っきり違うとも言えないのが人間と魔獣の関係だ。でも、そんなもんに振り回される俺たちじゃないだろう?
「この通り、キグノの旦那は群れを相手でもものともしないほど強いでやんすが、無法をしなければ戦ったりはしないでやんす。完全に人間の味方でもなければ、魔獣の敵でないのも分かったでやんしょう? しばらくは静観してほしいでやんす」
「良かろう。敵でない者を敢えて敵に回すほど、我らも愚者ではないつもりだ」
「影狼の旦那はああ言ってくれやんしたが、他の方々はどうでやんすか? これ以上の戦いはお勧めできないでやす」
すまんな、ラウディ。
「私もここは収めるべきだと考える。人間との対立を深めたところで得るものは少ないだろう。逆に弱体化するだけではないか?」
助かるぜ、オドムス。
全ての魔獣が移動を始める。魔法の撤去作業のために譲ってくれる気になったらしい。このうえは人間側の対応を急かしたいところなんだけどな。
一方の冒険者連中は歓声を上げるものも出てくる。そういうのが駄目なんだけど、なかなか理解が広がらないもんだな。
「勘違いしないでほしい!」
頼むぜ、ノイン。
「これは僕たちの勝利じゃない。ただ、彼ら魔獣がこちらの不手際を寛容に受け入れてくれただけだ」
「ノイン殿のおっしゃるとおりであるな」
「ええ、まずは実行犯を問い詰めて魔獣避け石板の設置場所を速やかに把握して、一刻も早く撤去してください。これ以上迷惑が及ぶようなら、魔獣の包囲でボゴス・カルが孤立したとしても仕方ありませんよ?」
脅しに掛かったな。
これで騎士隊長も速やかな対応をしてくれるだろう。後処理にこの国がどんな動きを見せるかまでは分からないけどな。少なくとも、俺はこれ以上の苦労は御免だぜ。
◇ ◇ ◇
騎士からの報告で聞いた話じゃ、ファーマンを始めとした実行犯には相当厳しい尋問が行われて、石板の場所が判明すると早急に撤去の人員が差し向けられたみたいだ。
次の代官がやってくる前に国からの布告がどんどんきて、今後の施策が公表された。向こう二
そうなったらこの地域の税収は激減するけど、それは交付金で補われるらしい。当分、ボゴス・カルを含めた周辺の町や村は他所からの物資で運営される。
仕事を失った冒険者の足は間違いなく遠退くじゃん。経済は停滞するだろうけど、人間が原因で魔獣暴走寸前まで行ったんだ。それくらいの代償は必要だろうってノインは言ってる。
ボゴス・カル防衛戦に当たった冒険者にも、国からの支援で提示額以上の依頼金が支払われた。それだけ事態を重視してるってことなんだろうな。
「代官を任じられていたメイデス爵子は極刑が申し渡されたみたいなんだ。ちょっと重いかもしれないけど、多くの国民を危険にさらした罪と、今後の見せしめの意味もあるんだろうね」
前例らしい前例が無かったのが意外だけどな。
「あの人なりの繁栄への思いも嘘じゃなかった気がするんですが」
「でも、やっちゃいけないことは駄目なのよ」
「この地域が、危うく魔獣との抗争地帯と化すところだったのですから当然の報いです」
相棒にしては過激な物言いだな。
まあ影狼や他の奴らが聞き入れてくれなきゃ、どうなってたかも分からないし。
あと、ファーマン以下の実行犯も終身強制労働の運命が待ち受けてるらしい。まったく馬鹿な連中じゃん。
「そんなことより、たんまり儲かったのよ!」
「なんと、開業資金が目標金額に到達しました!」
おお、そんなに入ったのか?
魔獣暴走対策依頼の殊勲賞は文句無しでうちのパーティーってことになったのは聞いた。切り札まで使った甲斐があったってもんだ。
相棒の名前も売れてきて、俺に対して妙な気を起こす研究者なんぞは大きな声を上げられないはずだと予想して使用に踏み切ったんだけど、大勢に見られたあれは噂になっちまいそうじゃん。
「おめでとう!」
「ずっと頑張っていたからね。これはお祝いしないとね?」
美味いもんの匂いがしてきたぜ。しめしめ。
「パーッとお祝いするのよ!」
「パーッと使っちゃ駄目でしょ!」
「そうです!」
「だ、駄目だったのよ……」
そううるさく言ってやるなよ。めでたいことなんだからよ。ほら、尻尾はむはむしてやるって、ティム。
「あひぃん」
「こらー!」
そんなにやきもち焼くなよ。ほれ、相棒の尻も舐めてやるから。
「きゃっ! 何すんのよー!」
遠慮すんなってぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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