魔獣の敵(8)

 後ろから状況を見定めていたノインたちは一様に落胆したみたいだ。


「決裂のようですな?」

「いえ、戦うつもりなのは一部みたいですよ。ほら、退いていくでしょう?」

「かなりの魔獣が説得に応じてくれたみたい」


 こんなもんだろう? 俺だって全部の魔獣を説得できるなんて最初から考えてなかった。聞き分けない連中とはぶつかるしかないじゃん。


「ここからは僕たちの仕事ですよ。あくまで襲ってこようという魔獣は、都市の人々を守るために倒さなくてはなりません」

 こんなもんで勘弁してくれ。

「無論です。我ら騎士の務めを果たしましょう」

「冒険者の務めもね」


 距離を取っていた魔獣の一部が、波が寄せるように襲い掛かってくる。


「上出来だよ、キグノ。五分にいけそうだ」

 頑張ったろ?


 さあ、ラウディ。相棒は任せたぞ。

「合点でやす。おいらは走り回るでやんすよ」

 張り切りすぎるな。魔法は防いでくれるから言う通りにすればいい。

「ご主人の足でやんす」


 俺は大地に爪を噛ませて走る。堅刃ロブストブレードの角度を下向きに調整して空気抵抗で踏み込みを深くしてる。セネル鳥せねるちょうの真似事さ。


 地を這うように進んだ俺は、さっきうるさく言ってきた豹魔獣と接触。狙いを定めてやってきた奴を擦れ違い様に上下に両断してやる。人間の金属武器なら受けられることもあるが、相手が魔獣なら骨までばっさりだぜ。

 集団で掴みかかってくる大型猿魔獣を斬り刻んでいたら、爆発の衝撃で吹き飛ばされる。空中で堅刃を二対とも射出して近場の魔獣を片付けると落下の衝撃を転がって逃がし、立ち上がりざまに再び二対とも発現させる。

 周りが全部敵ってのはきついな。ひと息つく暇もありゃしない。


 身体が痛むが治癒キュアは飛んでこない。どうも相棒も動けてないらしい。接近戦は不利と覚ったか、特性魔法の雨を走り回って躱しながら様子を見る。冒険者は一団となって対抗してるみたいだ。

 しかし、隙が多い。ほぼ冒険者だから兵隊みたいな戦列を組んで戦う訓練はろくに受けてないじゃん。てんでばらばらに踏み込むもんだから、凸凹になってそこに入り込まれてる。

 後方に下げられる怪我人の対応に相棒は忙殺されてるんだな。あれじゃ気が気でないだろう。仕掛けるか。


 せっかく生み出した堅刃を射出して前方の敵を仕留めて幻惑の霧を纏う。俺を見失って右往左往する連中の隙間を掻いくぐって冒険者集団を襲う魔獣の後方に入って目くらましを解除。堅刃を展開して斬り付けて攪乱する。


「固まってたら取り囲まれて狙われるだけだ! 慣れたパーティーに分かれて各個に攻撃! 魔法の使用だけ注意して!」

 それだぜ、ノイン。


 騎士隊長指揮下で動いていた冒険者は散開するも、逆に隙は少なくなる。手慣れた連携に戻っただけだからな。

 それでも普段の勢いは無さそうに見えるぜ。ここまでに失われた戦力が尾を引いてる。負傷者が出過ぎた。


 相棒は無事……、ぐぅっ!

「あれぇー、何か間違えたかぁー?」

 手前ぇ! ファーマン!


 眼前に現れたパーティーを回り込もうとしたら、突然横薙ぎに斬り付けられた。ぎりぎり躱したが、耳の先をかすったぜ。


「お前は味方なんだっけ? そこら中に魔獣が居るから分からなくなるぜ。うろちょろしてやがったら間違って斬っちまうかもなぁ?」

 方便だな。

「人間様に混じろうとするから魔獣の敵になっちまったんだろ? どう足掻こうがお前は魔獣で人間の敵なんだよ。どこにも居場所なんてねえんだ。ここで死んで楽になれ」

 その注文は聞けないぜ。俺にはやることがある。

「手伝ってやるぜ!」

 黙りやがれ!


 ファーマンを含むパーティーは同志の集団らしい。五人ともが俺を狙って剣を振るおうとする。背後には強硬派の魔獣が迫ってるんだ。悠長に相手していられないぜ。

 堅刃で受け止め後退しつつ二人の足を払うと、殺到した犬魔獣が食らい付いている。回転させた刃で背後を薙ぎ払い、退路を確保しながらファーマンから距離を稼ごうとするが執拗に追ってきやがる。


「キグノ、待ってて!」

 来るな、相棒! 突出するな、ノイン!

「彼の邪魔をするな、ファーマン! それは敵を利するだけだぞ!?」

「敵ってのは何だよ? 魔獣だろうが!」

「分からない奴だな!」

 妙だぞ、これは。


 視界にはファーマンのパーティーと似たような動きをする集団がいくつか。この事態が鎮静化すると困る理由でもあるのか? だとしたら……。

 考えてる暇なんてない。リーエたちが孤立しちまう。


「マズいのよ! 多過ぎるのよ!」

「これは危険な状況です、ノイン!」

「出過ぎか! でもっ!」

 進退窮まったな。

「キグノ-! こっちに!」


 相棒の叫びが耳に飛び込んでくるが、正面には虎魔獣が入り込んでくる。伸ばされた爪は左刃で斬り払い、右刃を胸のど真ん中に突き立ててやる。

 戻った視界には悲痛な相棒の顔が見える。状況は厳しくなる一方じゃん。


 まったくどいつもこいつも好き勝手やりやがって。聞き分けのない強硬派魔獣も気に食わないが、邪魔をする人間にも腹が立って仕方ない。俺ばかりかリーエまで危険にさらしたな? もう許さん。


 目覚めろオン


 ただじゃ済まさないぜがるるるるる!

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