魔獣の敵(7)
うっわー、こりゃ三千は居やがるな。この辺の連中が全部都市の人間を狙って集まってる。門から出てくるのを襲う気だったんだろうが、まず俺が出てきたもんで動くに動けなかったんだろうさ。
勘弁してくれよ。こっちの戦力は八百人くらいだって話なんだぜ。話になんないじゃん。
あー、誰かこれを仕切ってる奴、居るか?
「そんなの居るわけがないだろうが! なんで
事情があるんだよ。それを説明したってきりが無いから、まずは人間のほうの主張を伝えるぞ。
「主張? そんなの知ったことか!」
「聞こう」
現れたのは、でかい身体に黒っぽい毛皮を纏い、漆黒の瞳を持った狼。こいつが噂の
「我らを森林帯に居られなくさせる人間の魔法に対抗するべく参集している。力を示さねば、人間は省みないであろう」
それなんだがよ、実は一部の人間の暴走だ。あの魔法の使用には本来厳しい制限が掛かっているのさ。人間だってこうなるのは解っているからな。
「しかし、使用されたのは事実。これからも使用されない確証はない。人間には痛みの歴史が必要だと判断したのだ」
確証を問われると厳しいもんがある。
「ほらみろ、人間なんてそんなもんだ!」
「食い殺されねえと分かりゃしない!」
聞け! よく考えてみてくれ。この魔法、生み出したのは人間だ。その気になりゃ、俺たち魔獣を生活圏から追い払うことだってできたんだぞ?
「やりやがったじゃないか!?」
だから今までやらなかったって言ってるんじゃん。勘違いした馬鹿が一人出てきただけなのさ。人間は魔獣との正面衝突を、痛みの歴史を望んでいない。取り仕切っている王様にはそれくらいの分別はあるんだ。俺たちとの共存を願っているのが解らないか?
少し空気が変わった。俺の主張がいくらか浸透していってるんだと思いたいんだがな。
「それで人間は何と言っている」
謝ってるぜ、影狼。やらかしやがった愚か者はもう檻の中だ。そのうえで、もちろんあの魔法の撤去を約束してくれた。だけど、この状態じゃ撤去に向かわせられないんだよ。
「ふむ、筋は通っている。つまりお前はそれを信用しろと言っているんだな?」
ああ、始末は付ける。ここは退いてくれ。
「しかし多大な迷惑をこうむった我々に詫び一つで退けというのは道理に合わん。それで納得させるのは難しいとは思わんか?」
だよな。でも、人間がやるような約束事の類を書面にしたところで、お前たちには意味がないじゃん。口約束以上の保証をする手段が無いんだよ。
「うむ、その通りだな。手詰まりか」
魔獣の集団は影狼の判断に耳を傾ける雰囲気になっている。このボスがどれだけ強者かって証明みたいなもんだ。こいつを納得させられるかどうかが交渉の鍵になりそうだな。
あと、できるとしたら俺の提案だけだ。少し時間は掛かるだろうが、魔法が解除されて現状が改善されないようなら好きにしろ。もうお手上げだ。
「人間を襲っても構わんというのか? 人間側に立つお前が?」
人間全てを擁護する気なんて毛頭ない。人間と争うななんて言うつもりも無い。食うか食われるかの関係まで解消するとか都合のいいことは考えてない。
「争いも否定しないとはな」
戦って勝利したなら相手を食うがいい。それが人間でもな。それが魔獣の流儀だ。だがよ、面白半分に命を奪うな。それだけは言っておく。
「お前の理屈は分かる。他に餌があるのに人間を襲うのは利口ではないな。必ず反撃される。だから我ら影狼は人間とは生活圏が重ならないよう努力している」
そう願いたいもんだ。
「しばらく監視させてもらう。状況が改善されないようだったらその時は覚悟せよと伝えろ」
頑張ってみるさ。
何とか納得してくれたみたいだな。こんな奴の群れ相手に戦いたくなんてない。間違いなく命懸けになる。
「おいおい、簡単に手打ちになんてしてくれちゃ困るぜ。俺たちは腹ペコで放り出されてんだ。謝る気があるってんなら、肉を差し出せよ。腹を満たす人間の肉をよ」
聞いてなかったのかよ。
「聞いてたぜ。だが、詫びるというなら出すもんが有るだろうが、出すもんが」
人間の愚か者も手に負えないが、間抜けな魔獣も同じだな。
「何だと?」
気付いてないとでも思ってんのか? ここに集まってる奴らに草食の連中が少ないのを。腹が空いてるなんて嘘は通用しないぜ。お前らみたいなのが食い散らかしたんだろ? 加減も知らずにな。
「それがどうした? 魔獣の流儀だろうが?」
どこにでもこういう輩は居やがる。人間にも魔獣にもな。
逃げ場所を失くして絶えた種がまた戻るのにどれだけの時間が掛かると思っている? お前の貪欲を満たすのに犠牲になった生態は、人間だけじゃない、
「知ったことか。食うもんが無くなれば人間を食ってもいいんだろ? お前が言ったんだぜ?」
分かったぜ。
「いいんだな?」
ああ。ここでお前らみたいな連中を潰しとかないと、魔獣も人間も困るってことがな!
鼻面に皺を寄せて、見せつけるように牙を剥く。それと同時に身体の両脇に二対の
俺の道理が気に食わない奴は掛かってこい! 尻尾ゆらゆらゆらーり。
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