大切なもの(5)
「二人は新
当然の疑問だな。探りだけどな。
「帰りません。そう決めているので」
「ご両親は悲しまれない?」
「悲しまないといえば嘘でしょうが、帰ろうものならまた口うるさく言われてしまいます」
そいつは尋常じゃないな。
「二人の夢を伝えた時、母は呆れるとともに怒り出してしまいました。愚かな夢を抱くのは止せ、と。旧い考えの持ち主なのです。獣人が金勘定などに手を出すべきじゃないと言われました」
「ティムはマシなほうなのよ。フェルなんて指をさして笑われたのよ。本当に馬鹿な望みだって。だから、夢を叶えるまで絶対に家には帰らないのよ」
「二人でそう誓い合ったのです」
獣人の常識が解らないが、そういうもんか。
こっちとしちゃ都合がいい。肝心な
「お祝いはしたいので、どこか大きな街で過ごしたいとは思うのですが」
「この辺に都市はあるの、ノイン?」
「ソルトリって都市があるね。
良い感じだぜ。
◇ ◇ ◇
俺とカッチと相棒で貴金属店に行く。頼むから予算内で希望に沿うような商品に巡り合えますように。
皆でショーケースを覗き込むが、表に出ているのは高級品ばかりで手の届くものは無い。別にそれでいいのさ。俺が示すのは方向性だけで、最終的に決めるのはカッチだから店内に入らなくていい。
商品の一つ、貴石の填まった銀の腕輪を鼻先で示す。べらぼうな値段が付いてるが、買うのはあんなごつい代物でなく、細い装飾品みたいなので良いんだ。
「……宝石は無理だよ、キグノ」
違う違う。台座があればいい。あとはこいつ。
「ロッドリング? ああ、魔石を付ける台座があればいいのね? 魔石なら置いてある中から選りすぐればいいんだものね?」
その通り。必要なのは台座付きの腕輪。
「分かったわ。行ってくるね」
よろしく。
相棒ならこんな店でも追い出されたり嘗められたりはしない。カッチを抱いていたって、右腕にはミスリル製のロッドリング。左腕には同じくミスリル製のレジストリングと反転リングをいくつも填めてる。それだけで一財産だ。いい客だと思われること間違いなし。
「高い商品ばかり勧められたけど、友人への贈り物だって買ってきちゃった」
やっぱりな。
「これで良かったのよね、カッチ?」
良かったのかとさ?
「
良い買い物ができたみたいだな。
◇ ◇ ◇
問題は加工のほうなんだよな。これから部屋で台座に付ける魔石をカッチに選ばせるのまではいいけど、取り付け加工費が足りないみたいだ。ここはひとつ、俺がひとっ走り森林帯に出向いて好戦的な奴を一匹狩ってくるか。
「これとこれ、これも高品位魔石だから、この中から選んでね、カッチ」
迷ってる迷ってる。
「加工費、どうしようかなぁ?」
ちょっと出かけてくるわ。
そう思ってたらノックの音が聞こえた。しかも、既に扉は開いてやがる。行儀が悪いぞ、ノイン。相棒が着替え中だったらどうする気だ? それを狙ってやがるのか?
「何を企んでるのかな?」
なんでもねーよ。
「えっと、その……」
「腕輪だね。二つってことは、あの二人にかい?」
「内緒にしてくださいね?」
俺に向けてウインクすんなよ。
「何かこそこそしていると思ったらこういうことか」
「わたしはお手伝いしているだけなの」
「だろうね。だって彼が冒険者の真似事しているのまでは知ってるよ」
真似事って言うな。俺と相棒で一組だろうが。
「不満げだね? 確かに失せ物探しは最適だけど、君は純然たる戦士じゃないか?」
全てお見通しってわけか。探ってやがったな?
まあ、獣人娘たちには覚られない工夫はしてたが、こいつのことは気にしてなかったもんな。
「魔石を付けるのかい?」
貴石なんて手が出ないじゃん。効果もあるし。
「もうちょっと頑張らないと加工費が足りない感じ。どうするの? それだけわたしが出してもいいのよ?」
待ってくれ。ひと稼ぎしてくる。
「僕がやろうか?」
何だって?
「それほど上手じゃないけど、変形魔法が少し使えるのさ。集中すればそれなりの仕上がりになるよ」
「わっ! 職人さん、見つけたよ。良かったね、キグノ、カッチ」
そんなに大粒じゃないが、高品位で形の整っている魔石を取り付けてもらう。磨いて光沢を増した魔石と銀の腕輪では色味が少し地味だけど、贈り物としては充分じゃないか?
「できたー! 頑張った甲斐があったね?」
できあがったぞ。
「
腕輪を首にかけてカッチはご満悦だ。こいつ、自分が欲しくなってるんじゃないだろうな。
「
祝いの時まで隠しといてくれるとさ。
「
『倉庫』に格納したノインはカッチを抱き上げる。優しい笑顔を浮かべて撫でると話し掛けてる。
「あの二人も情が深いけど、君も大切に思っているんだね? 君たちの友情は見ていて本当に羨ましくなる時があるよ」
「ティムたちとカッチの関係が?」
「そうさ。君とキグノとは少し違うだろう? 一緒に居るのが普通に感じる家族とはね」
まあな。
相棒がノインを見る目に熱っぽさがある。許容されるのと理解されるのには違いがあるもんな。普段は感じられないものを感じてるんだろうな。
ともあれ準備万端だぜ。気分は最高、尻尾ぶんぶんぶぶんぶーんぶんぶん。
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