大切なもの(4)

 考えがあるとは言ったが、いくら俺が土魔法が使えるといえど貴金属を採掘、精製はできるわけない。貴金属を得ようとすれば必然、買うしかないのさ。

 ただ、俺とカッチで金を扱うのは無理ってもんだ。最低一人は人間の協力者が必要不可欠。要は、相棒に協力を求めるしかないじゃん。


 冒険者ギルドに立ち寄った時に他の三人の目を盗み、リーエの袖を咥えて依頼掲示板まで引っ張っていく。


「どうしたの、キグノ?」

 俺の代わりに依頼を受けてくれ。

「気になる依頼があるの?」

 そいつは自分で選ぶから代理を頼む。秘密でな。


 最近の定位置である俺の背中で、カッチが口頭で教え込んでいた仕草をする。秘密を表す仕草さ。


「え、内緒なの?」

 そうだ。尻尾ふりふり。

「何かあるのね。分かったわ」

 悪いな。じゃあこれを頼む。


 依頼票の一枚を咥えとると手に握らせる。


「落とし物の探索依頼? あ、なるほど。これなら得意だもんね?」

 そういうこった。

「三人に秘密でお金が欲しいの? 貸してあげるのに」

 それじゃ駄目なのさ。尻尾てろーん。

「ふぅん、まあいいわ。時間を作ればいいのね?」

 話が早いな、相棒。さすがだぜ。


 察しの良いリーエは、きっと依頼完遂後の処理も自分の役目だと分かってくれているはず。あとは俺とカッチで依頼を達成すればいい。この方法なら金を稼げる。


   ◇      ◇      ◇


 依頼人のところに出向いた俺は、住居を突き止めると周囲で本人の匂いを憶える。それで、失せ物次第で目星を付けた場所で匂いを探る。見つけたら依頼人に届ければ達成だ。


 こうして列挙すれば俺だけで何とかなるように思えるだろう? ここが要点だ。この方法は受け渡しに大きな問題を抱えている。

 俺みたいなでかい犬が、いきなり失せ物を持ってきても取り合ってもらえない。怖がらせるだけの公算が大きい。

 そこでカッチの出番だ。失せ物は普通に器用な前脚で渡す。そのうえで丸めて首輪に挟んでおいた依頼票も提示する。そうすれば、まるで俺とカッチがお使いで届けに来たみたいに見えるだろう? 愛らしいキツネザルの姿に、依頼人も快くサインをしてくれるわけだ。


 カッチなら依頼料も受け取れる。あとは相棒と一緒に冒険者ギルドに赴いて処理してもらうだけ。ポイントはリーエに入るが、そんなもんは俺たちの目的じゃないからどうでもいい。


 そうそう順調にはいかない。貴重品の失せ物は結構な割合で拾われて売り払われていたりする。そうなると手が出せない。落とし物だからって盗んだり強奪したりもできないから困る。

 その場合は仕方ないので、依頼人をその物が売られている場所に連れていく。気前のいい依頼人であればそれで達成としてくれるが、そうでない時は諦めるしかない。

 そんな失敗も何度も経験したので、一度に幾つもの依頼を受けて探す方法に移行した。それほど悠長にやっていられないからだ。


「まにあうのー?」

 たぶん何とかなる。

「カッチもがんばる」

 ああ、新輪しんねん祭の時に渡したいもんな。

「しってる。きらきらのよるなの」

 贈り物をするには最適の夜じゃん?


 人間は新輪しんねんに一つ、年齢を加える。その時に愛する人や大切な相手に贈り物をする慣習がある。

 正確には把握してないが、失せ物探しを始めた段階で新輪しんねんまで二往二ヶ月半はあったはず。相棒に預かってもらってる金の集まり具合は悪くない。ただ、仕上げの加工の時間がどれだけ取られるか分からないから、早く目標金額まで貯めたいんだよな。


   ◇      ◇      ◇


「ぼうし?」

 今回は帽子だ。珍しい失せ物だが、大事なもんなんだろ?

「みつかるかな?」

 見つけるさ。このタイプの依頼は気前のいい客のはずだからな。


 辿り着いた匂いの元は樹上。風で流されてきた匂いでかろうじて発見できた。


 出番だ、カッチ。

「いってくるのー!」

 気を付けろ。変なとこに飛ばすなよ。

「あんしんしてまってて」


 かなり高い樹の上のほうだったが、さすが樹上生活者だけあってみるみる登っていく。ほどなく引っ掛かってる帽子に辿り着き、取ってみせた。

 ところが、でかしたと思った瞬間に強い風が吹く。両前脚で帽子を持っていたカッチは煽られて落ちそうになっちまった。


 構わないから帽子を放せ!

「いやっ!」

 放さないと落ちるぞ!

「はなさないの!」


 後ろ脚が枝から引き剥がされて小動物の身体は宙に浮く。それでもカッチは帽子を放さない。

 落ちる間に枝に当たって何度も身体が弾む。落下位置を目指して俺が走り込んだから地面に激突はしなかったが、カッチはぐったりとしてる。それでも帽子は放さない。

 緊急事態に、幻惑の霧を纏った俺は彼女を咥えて疾走した。相棒のところまで一目散だ。


「カッチ! 治癒キュア!」

ひゅるぐるるるーいたかったのー

 間に合ったか。肝を冷やしたぜ。

「よかった。びっくりするじゃない」


 その時ばかりは相棒が依頼人のところまで同行してくれる。帽子を取りに向かったカッチが怪我をしながらも取り戻したことを説明すると、裕福そうな依頼人は料金に色を付けてくれた。

 それで資金集めは大きく前進。


「頑張るのはいいけど、あまり無理しちゃ駄目!」

 叱られたぞ。

ひゅんうんくるるろろるぅごめんなさいなの


 もう無茶すんじゃないぞぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る