獣人の夢(4)
カッチは眠りやがった。毛束を掴んで眠るとか、樹上生活者は器用だな。
「でも褒められたものじゃないよ、ノイン」
「うん?」
「武装しているとはいえ、女の子二人連れて賞金首を狙うなんて」
こいつ、元から呑気者じゃん。
「んー、一応は……」
「彼を責めないであげて。ティムが無理を言ったんです」
「そうだったの。どうして?」
事情がありそうだな。恨みでもあったか?
「その……、賞金が高かったので」
「ええっ! それは無茶じゃない?」
賞金が高いってことはそれだけ凶悪で仕留めにくいってことじゃん。
「そんなにお金が欲しいの? 無理してまで?」
「うん、欲しいのよ」
「リーエ、彼女たちには夢があるんだよ。僕も応援したくてパーティー登録してるのさ」
ノイン曰く、ティムとフェルは行商人を目指してるって話だ。今はその資金集めに冒険者で稼ぎたいらしい。
無理して高級な車輛を購入したのも、牽き手にそれなりに高価な属性セネルを導入したのも、全ては将来の行商のためだと言うんだ。
「ティムは以前、両親と北辺爵領に行ったことがあるんです。父母が育った
「ごう? 町ではないのね?」
「ええ、人族にはない生活慣習があるのです」
そんなのがあったのか。
説明を聞くと、確かに獣人郷っていうのは特殊な生活様式だった。
獣人は原種単位で
その連をいくつか纏めたのが
基本的には北部密林での狩猟採集と、郷の周りにナーフス園を作り上げて収獲した物を出荷して生活しているという。ナーフス売買で得た収益で、生活用品を揃えて暮らすのが普通みたいだぜ。
「昔に比べたら格段に豊かになったと聞きました。以前は、それは厳しくも貧しい暮らしをしていたんだそうです。三十まで生き延びるのは六割程度だったと言っていました」
「そんなに少ないの!?」
「過去は主食が魔獣肉だったんだ。食うか食われるかの生活だよ」
そりゃ
「今はそんなことはありません。主食はナーフスと魔獣肉に変化しています。生存率は跳ね上がり、狩りの最中の事故死よりは病死のほうが上になりつつあるようです」
「はぁ、良かった」
我が事のように安心してるな、相棒。
「それでも生活環境まで進歩しているとは言いがたい状況でした」
都会で生まれ育ったティムやフェルは当たり前のように多数の魔法具に囲まれて、その恩恵を受けている。魔法適性に乏しい獣人でも、個々の差はあるにせよ魔力は使えるからだ。
ところが獣人郷では簡素な魔法具を少数だけ持っているだけで、それを工夫して使っているのが現状だったと言うんだ。
買い揃えられないほどに貧しいわけじゃない。ただ、どんな便利な魔法具が存在するのか知識が足りないだけみたいだ。
「ティムは獣人郷の同胞にも王都のような便利な暮らしがしてほしいんです。様々な魔法具を知っているティムたちがその便利さを説いて回り、売り歩くことで広めたいと思いました」
「それがフェルとティムの夢なんだよ」
なるほどなぁ。
二人が人族社会も獣人郷も知ってるから出てきた発想じゃん。今は無茶もするが、それは獣人全体のことを思っての夢なんじゃないか?
「それはちょっとおかしな話だわ」
「リーエも獣人が商人になるなんて変だっていうのよ?」
「違うの。商人ってそんな甘い存在じゃないのよ」
だよな。どうしてそんな状況なのか分からん。
もし獣人郷という市場が転がっているなら、そんな好機を決して見逃さないのが商人という生き物だ。現状のほうが不自然だって説明してる。
相棒が放り込んだ驚きの意見に二人は車輛を止めた。鳥車を走らせながら考えられるような問題じゃないと思ったんだろう。
「考えもしなかった……。どうして獣人郷に商人は来ていないんでしょう?」
気付いたか、ティム。
「それはね、ホルツレイン王国が商業ギルドに規制を要請しているからなんだ」
「規制!?」
「便利にならないようにしていたんですか? 王国は獣人郷の発展を阻害したいと考えていると?」
ノインがそんなこと言うから驚いてんぞ。
「それは誤解。王国は獣人郷が犠牲にならないよう考えた」
何も手段を講じなければ、豊かな獣人郷には商人が殺到する。資産を持つようになった獣人はその用い方に不慣れ。悪質な商人はそこに付け込んで必要な道具とは別に、郷の暮らしでは不要で高価な魔法具まで売り込みに行くだろう。易々と騙された獣人たちはせっかく得た資産を無駄に散らすことになっちまう。
それを懸念した王国は商業ギルドに自制を求めたってわけだ。
「王国は望んだのは、獣人郷の自発的な発展。彼らが便利な魔法具を求めるようになった時にこそ導入できる道筋を作ろうとした」
合理的だな。
「それじゃ、フェルとティムが商人になっても魔法具は売れないのよ?」
そういう理屈になる。
俺はちょっと寝そべって休ませてもらうぜ。カッチぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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