獣人の夢(3)
一匹と四人、三羽となった俺たちは
でも、旅の仲間はこれだけじゃないんだろう?
「大丈夫よ。いらっしゃいな」
匂いがしてんだよ。
「ほんとう? たべない?」
食わないって。
「ほら、そう言ってくれてるでしょう?」
「ふさふさのせなかにのってもいい?」
フィッピが声を掛けていた相手は荷台から飛び出してくると、車輛の腕を伝って彼女の背中に移動。そこからジャンプして横を走っていたノインの肩を経由すると、俺の背中に着地した。
「ふわふわなの。さわりたかったー」
いきなりご挨拶だな。
「おこったの? たべちゃう?」
食ったところで腹の足しにもならないって。
そいつは背中の毛に
「あっ! カッチ! だ、大丈夫なのよ?」
好きにさせとけ。
「あはは、大丈夫よ。キグノはよその子を食べたりしないから」
「すみません。急にどうしたんだか?」
「さっきからきゅるきゅるぐるぐる言ってたでしょ? お話してたの。それでもう仲良しになったのよ」
俺が推し量られていただけだけどな。
「おいでー」
相棒がお呼びだ。挨拶してこい。
「
「いらっしゃい。あなたは誰?」
「
ずいぶん人慣れしてやがる。
「その子はカッチ、セアカキツネザルです。小さい頃に迷い込んできてからティムたちが飼っています。愛らしいでしょう?」
脚先と尻尾の先、それと額の星が白いが、それ以外は焦げ茶色をしてる。だが、背中にいくほど毛は赤を帯びてくる。だから背赤なんだろう。
「このひと、やさしい」
リーエなら何の心配なく甘えられるぞ。
「そうみたい。でも、ふさふさがすき」
なんだ。戻ってくるのかよ。
背中に跳ねて戻るとしがみ付きやがった。こいつの脚は器用に動くみたいで、毛を束にして掴めるみたいだ。今度は俺のたてがみに身体が埋もれてる。
「キグノがお気に入りみたいなのよ」
「ふふ、たまには触らせてね」
「むー、いつもはフェルの尻尾が好きなのよー」
ほれ、主人が不満を表明してるぞ。
あいかわらず小さい奴らは俺の背中に乗りたがる。肉食獣に乗れる機会なんぞないだろうから物珍しさも手伝ってるんだろうな。
「二人はちょっと変わっているだろう?」
「え、そうなんですか?」
「ええ、ティムもフェルもホルムトで生まれ育ったんです。それで」
おー、あのでかい都市か。都会の子なんだな。
「申し訳ないんだけど、わたし、獣人さんと接点がなくって違いが分からないの」
中隔地方北部は伝統的に獣人が少ない。それは宗教的な歴史に基いているんだけど、背景が変わった現在もその状態があまり解消されてないんだ。
相棒はその旨を説明して伝えてる。
「スリッツには少しはいらっしゃったみたい。でもアルクーキーみたいな大きめの町でもほぼ居なかったの」
「ああ、そういえばそうだったね」
ザウバじゃよく見かけたが、親父さんが出入りしてた商業区じゃとんと見ないし。
「それでは仕方ありませんね」
何が変なのか教えてくれ、ティム。
「獣人は普通、自分を指して名前で呼びます。ティムもそうなんですけど、愛称のような略し方をまずしないんです」
要するにルティンミなら自分を指してそのままルティンミって呼ぶんだとさ。ところがルティンミはティムだし、フェロームはフェルって呼ぶ。その辺が変わっているということらしい。
都会で人族に混じって暮らすうちに愛称という習慣が移りつつあるんだけど、それはかなり若い世代だけって話だ。
「フェルたちみたいな獣人のいない文化圏で育ったんなら、怖かったりする? 汚らわしいとか、逆に好奇の目で見られたりするのは悲しいのよ」
「そんなの杞憂さ。彼女はキグノみたいな肉食魔獣でも平気で家族だって言って一緒に暮らすんだよ? 獣人を受け入れがたいわけがないじゃないか」
相棒だって首振って否定してるだろ?
「そうなの? 嬉しいのよ」
表情のころころ変わる狐だな。冷静でずる賢いイメージなんて、この狐娘には皆無じゃん。
逆に熱く猛々しいイメージのある狼娘が物腰柔らかく冷静に映る。面白い取り合わせだよな。
「君のほうは属性セネルを買ったんだね? ラウディくんだっけ?」
「ううん、この子も自然で暮らしてたのをキグノが連れてきたの。新しい家族よ」
賑やかになったろ?
「わお、天然もの!?」
「それは珍しいですね。人間社会で繁殖に成功している昨今ですが、以前は簡単に捕らえられないくらい賢いので、極めて高価だったと聞いています」
「善意で私のところに来てくれた子だから大事にしてあげないといけないの」
いや、十分満足してるだろ。
「
「ほんとによくしゃべる子だね」
「でしょ? 楽しいわ」
ノインたちと合流して一層賑やかになったけどな。猿轡噛まされた荷物がさっきから「うーうー」とうるさいのは気にしないぜ。
「ねー? うるさいからキグノのせなかにいてもいい?」
おう、お前くらい軽いもんじゃん。
ほら、軽快だろすったかたったかたったかたー。
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