獣人の夢(2)

 久しぶりじゃん、オドムス。

「助力感謝する、キグノ。私も主の指示なしに人間の殺害を禁じられている。十分な援護ができないでいた」

 この程度の相手なら問題ない。時間稼ぎしてくれて助かったぜ。


 いち早く気付いたオドムスは俺が雌に向かっていく間、雄の一人を牽制して足留めしてくれていたんだ。


「やあ、終わってるね、キグノ?」

 そっちもな。

「ああ、こっちも終わったよ」


 あいかわらず奇妙な奴だ。この黒髪緑眼の雄は、俺が話し掛けている言葉が解っているような反応をしやがる。


「ティムもフェルも怪我はないかな?」

「問題ありません。ありがとう」

「怪我してないのよ」

 雌二人の心配か。いつもながら気の回ることで。

「凄腕の回復役が来てくれたから安心なんだけどさ」

「わっ! やめて、ノイン!」

「そちらの方はお知り合いなのですか?」

 俺もな。

「彼女はフュリーエンヌ。単身ソロの治癒魔法士」

「遠慮なさらず言ってくださいね。ノインのお仲間でしたら喜んで治癒キュアを使いますので」

「ありがとうございます。ティムはルティンミと申します」


 その娘は背中に流した金髪に、薄黄色の瞳をしてる。ただ、金髪の間からは、俺のものによく似た三角形の耳が立ち上がってんだ。

 つまりこの雌は獣人なのさ。獣っぽさ、一般に獣相と呼ばれるやつは薄めだろう。それでも鼻面は強めに突き出してる。そして尻の後ろでひるがえっている尻尾は長くふさふさだ。

 そこまで特徴を備えていればすぐ分かる。この雌は狼の獣人だな。


「キンイロキタオオカミの獣人です。よろしく」

「はい、わたしのことはリーエって呼んでくださいね?」

「はいはいはい、フェルはフェロームなのよ! 仲良くしてほしいのよ!」

 押し出し強いな。


 もう一人の見た目はかなり目立つ。首までの黒い髪には黄色の房が多数垂れ下がっている。斑というより筋状に走る黄色が目を引く。鈍色の瞳がよく動き、髪を割って伸びる三角の耳はかなり大きい。

 獣相は濃いめで、鼻が鋭く突き出し、尻の尻尾も太く長い。問題はその尻尾が黒と金の縞模様をしている点だろう。こいつは目立って仕方ないだろうに。

 全体の形を見れば分かりやすい。こっちの雌は狐の獣人だろう。


「フェルはソウゲンシマオギツネの獣人なのよ。良いでしょ、この尻尾?」

「ええ、とっても綺麗」

「んふー。リーエ、大好きなのよ」

 馴れ馴れしい雌だな。もう抱きついてやがる。

「で、僕がノ……」

 要らねー!

「君はどうして名乗らせてくれないのさ、キグノ」

 知ってるからに決まってんじゃん。


   ◇      ◇      ◇


 とぼけた野郎を黙らせると、倒れている大剣の雄の頭に前脚を乗せてぐりぐりする。こいつらの処理のほうが先だろ? 放っとけば目を覚ましちまう。


「こいつらは賞金首なのさ。身体強化能力持ちの冒険者だったのに、暴力組織の用心棒に収まった挙句に無関係な多くの人まで手に掛けて手配されていたんだ。発見したから奇襲かけて捕縛しようとしたんだけど気付かれて引き離されてしまってね。失敗失敗」

 さっさと縄を出せ。


 ノインが倒した二人とこっちの三人の五人組だったみたいだな。一応生かして捕らえたけど、罪状からするとたぶん死刑だろう。


「それでこの狼さんはキグノって名前? ノインの知り合い?」

 不本意だけどな。

「僕は友達だと思ってるんだけど、反論がありそうだね。仲は悪くないよ」

「リーエが飼ってるの?」

「ううん、家族」


 相棒はしゃがんで俺の首に腕を回すとたてがみに頬擦りする。


「彼は強いだろう? 何せ彼女がくだんの『イーサルの魔犬使い』だからね」

「ああっ、それで!」

 納得したか、ティム。

「わー、すごいのよ!」

「ひん! どうしてそれを!?」

「何を言っているのさ。噂を聞いてすぐにピンと来たよ。あれは君とキグノ以外にないってね?」

 知ってる奴は気付くよな。


 そんな話の途中で鳥車ちょうしゃが近付いてきた。当然って顔をしてるってことは二人の鳥車か? 荷台に縛り上げた五人を放り込んでいってるが、この車輛何か変じゃん。車輪が内側に倒れてるぞ? 壊れてないか?


「これはそういう車輛なのですよ」

 そうなのか?

「変わってるでやんすね?」


 俺とラウディが覗き込んでたら、牽いてるセネル鳥せねるちょうが教えてくれる。そいつも紺色の羽を持つ属性セネル。名前はフィッピっていう闇属性の雌だとさ。


「車輪が寝ていると、走ってる時に急に進路を変えても安定して曲がるんです。ガタガタしない仕組みもあるから牽いていても楽なんですよ」

「面白いでやんすね?」

 牽いてみたいのか、ラウディ?

「興味あるでやんす」

「うふふ、お願いしてみたら?」


 四人が『魔犬使い』に関する話で盛り上がっている横で、俺たちはそんな会話を交わしてる。フィッピはラウディより身体はでかいが気は優しそうだ。


「珍しいのは貴方のほうです。彼女と一緒に人間社会で暮らしているのですか? 狼魔獣が?」

 俺は狼犬だ。お袋は闇犬ナイトドッグで親父が地狼ランドウルフ。で、こんな感じに仕上がってる。

「ご苦労されてるでしょう?」

 そうでもないさ。気楽な旅暮らしだぜ。な、ラウディ?

「そうでやんす」


 相棒と一緒ならな。尻尾ぶんぶんぶぶんぶーんぶんぶん。

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