迷子の仔猫(7)
騒動の後もまだ少し重い空気のまま、ホルスとアムリナはロロを抱いたロイスを食卓に連れていき座らせる。家族会議なんだろうが、相棒にも掛けてくれるように促した。どうも覚悟ができたらしい。
「どうしたの、父さん?」
流れが読めないんだな。
「ロイス、ロロを野に帰してあげなさい。この子はお前とは一緒に居られない」
「え、なんで? ロロは悪くないって分かったでしょ?」
「ええ、悪くなかったわね。でも、これからも悪くないって思ってもらえるかは分からないの。その子はどんどん大きくなっていくのよ?」
びっくりするくらいの早さでな。
「ロロに悪気が無くても、同じようなことがまた起きてしまうとしか思えないの。解って?」
「大丈夫! 僕がロロを守るから! ロロにちゃんといけないことを教えるから!」
「それには限界がある。聞き分けなさい」
両親が味方になってくれないことを理解したロイスの視線が彷徨う。そうすりゃ当然行きつくところはリーエだよな。
「ほら、リーエだってキグノと一緒に居るよ? 魔獣とだって暮らせるんだ。リーエなんか本当は有名な冒険者みたいだし、立派に生活してるじゃん!」
解ってないな。
「ロロと僕だって……」
「ロロはね、
「作り変えちゃえばいいんだ、リーエ。父さんは細工物が得意なんだから、この家だってロロが暮らせるようにしてくれる」
そういう意味じゃないんだよ。
重たい空気に大人しくしてるロロだけど、自分が話題の中心だってのは分かってる。困ったように俺を見た。
「ロロはここに居ちゃいけないの? ロイスのこと好きだし、いけないって言われたら憶えるよー?」
そうじゃないのさ。お前は大人になったら親父と同じ姿になる。当たり前だよな?
「うん」
それは人間にとっちゃ怖い姿だって思わないか?
「ちょっと思う」
お前がいくらロイスが好きでも、いずれこいつの迷惑になってしまうからな。
短い期間だけど、人間の中で生活したロロには常識ってやつが解り始めてる。
ロイスが決めたことに従ったほうがいいだろ?
「うん」
「ねえ、ロイス。わたしがどうして冒険者をしていると思う?」
「治癒魔法士の仕事ができるから?」
「ううん、そうやってお金を稼がないと旅ができないからなの。なぜ旅をしているか分かる?」
現実を教えてやる気か、相棒。
「どこか行きたいところがあるから?」
「そう、キグノと一緒に暮らせる場所を探しているの。唯一の家族だった父さんが死んで一人になったすぐ後に彼が
「うそ!」
真実を知ったロイスはもちろん、ホルスやアムリナも過酷な現実に目を瞠ってる。そこまでとは思ってなかったんだろうな。
「本当。家族はキグノだけになったから、彼と離れる選択肢なんて無くなった。一緒に暮らすのなら、それができる場所を探さなくてはならなくなったの。わたしたちの幸せの場所」
少し見えかけてるけどな。
「あなたもロロとの幸せの場所を求めて旅立つの? お父さんやお母さんを捨てて?」
「い……、嫌だよ、そんなの!」
息を飲んだロイスは親父さんやお袋さんの顔を見ると叫ぶ。そりゃ当然だろうな。いささかずるい言い方だが、こいつにだってそんな選択はできないはず。
「だったらロロとはお別れしなくてはいけないわ」
「嫌だよぉ」
ロロを抱き締めたロイスは泣き出し始めてる。八歳じゃちょっと厳しいか。
「それに、よく考えて。ロロにもお父さんやお母さんが居るはずなの。そこまで大きくなっているってことは居ないとおかしいの。あなたは離れたくないのに、ロロは両親と引き離したままでも良いの?」
「あ……」
「ね、ロイス。ロロを家族のところへ帰してあげましょう。あなたにはこの町に居場所があるし、この子には家族の傍っていう居場所がある。それぞれの場所で暮らすのが一番幸せじゃない?」
「……うん」
よし、偉いぞ。
「ロロのために勇気を出してくれてありがとう」
仔猫を抱き締めたままお袋さんに抱き締められたロイスは、はばからずに泣き声をあげている。辛いかもしれないが堪えろよ。
「僕、お母さんのとこに帰れるの?」
ああ、帰してやるよ。そいつは俺が保証しよう。
「ごめんね、ロイス。ありがとうぺろぺろ」
きっと伝わるさ。
さあ、まずはこいつらを幸せな居場所に連れていってやろうぜ、相棒つんつん。
「ホルスさん、アムリナさん、ロイスをお借りして構いませんか? 一緒にロロを返しに行きたいと思います」
「何から何まで世話になってすまない。どうかロイスとロロをお願いしたい」
「ええ。キグノならきっと探し当ててくれますから、そんなに時間をいただかないと思います」
また安請け合いかよ!
ちょっと待ってくれよ、相棒つんつんつつんつーんつんつん。
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