迷子の仔猫(5)
あれから
その間に俺は無自覚な仔猫に人間社会での力加減を教え込んだり、外に連れ出しては狩りをさせて、野に帰っても何とか生きていけるように練習させている。
ロロが野生を忘れちゃ駄目じゃん。かえって苦労するのは目に見えてる。
「ねえねえ、
「ロロのことを話したのかい?」
「ううん、僕が連れているのを見たんだって。それで触ってみたいって」
雌の友達の興味か。断りたくない気持ちも分かるし、ロロも加減のほうはできるようになってきたから大丈夫だろ。
「どうなんだろうか?」
「構わないと思います。キグノも尻尾を立てているので」
「よかった! 二人を悲しませないですむや」
手ぶらで行っちゃ顔が立たないもんな。
晩メシの席で予定が決まる。打てる手は打ってるから問題ないと思うけどな。
話の主役は丸々として眠りこけてやがる。う……、ちょっと太ってきちまったか?
◇ ◇ ◇
ロイスは町の中の空いた場所で待ち合わせしていた。何かあってはいけないので、俺と相棒も当然付き合っている。
そこには子供の雌二人が待っていて、ロロを連れていくとすぐに駆け寄ってきた。
「かわいい」
「本当、人懐っこい」
そりゃ人間の相手も優しくするように教え込んだからな。
「あはは、舌がざらっとしてるー」
「抱っこしてもいい?」
「うん、平気だよ、フェリーナ」
一人に抱かれたロロはもう一人のマージって雌に撫でまくられてる。多少扱いが雑だけど、これくらいなら我慢するよう言ってあるから大丈夫だろう。
「でも、この子、大きくなるんでしょう?」
「え、誰に聞いたの?」
「ダグズが言いふらしてるよ」
あの冒険者の兄ちゃんか。
「魔獣だから危険なんだって。でも大人しくて危険な感じしないね」
「そうだよ、マージ。ロロは危険なんかじゃないから」
「うん、そうみたい」
とりあえずは問題にはならなさそうだな。
だが、「見つけたぞ」と言いつつ、そこへ分け入ってきた奴がいた。なんだこの雄の子供は?
「クリント! どうしてここが?」
「探したぞ。なんだ今度は? 余所者の女の次は魔獣か? そんなにしてフェリーナやマージに良い顔したいのかよ!」
「違う! 二人がロロに触りたいって言うから会わせただけだよ」
なんだ。自分が雌にモテないからって嫉妬か。そんなつまらない口きいているうちは余計に嫌われるだけじゃん。
「ダグズに聞いたぞ。こいつ、魔獣なんだろ。だったら強いのか? 俺はこんな奴怖くないぞ。強いんだ!」
「
「なんてことするんだよ!」
おいおい、やめろ。
「クリント、おやめなさい。何もしていないロロを蹴ったりしたらいけないわ」
「なんだよ、余所者の癖に偉そうに! いけなくなんてないんだって! 魔獣は殺してもいいんだからな。討伐だ、討伐!」
「やめなさい!」
クリントは仔猫を叩き続け、怖がったフェリーナはつい放してしまった。
堪えろ。
「
「こうしてやる!」
「駄目だ! やめろよ!」
足を振り被ったクリントの前にロイスが割り込む。ロロを蹴るのはやめたが、今度はロイスへ拳を固めて殴りかかりやがった。
「討伐の邪魔だ!」
「やめろって言ってるだろ!」
「ぎゃっ! 痛い痛い! うああー!」
ロイスを殴ろうとしたクリントに、ロロは咄嗟に噛み付いた。本能的に守ろうとしたんだな。俺も割り込む機を逸していたが、こいつはマズい。
「ああー! 魔獣に噛まれた! 死んじゃう!」
仔猫が噛んだくらいで泣き叫ぶなよ。
「大人しくしなさい、クリント。
ほれ、もう傷は消えたぞ。痛くもないだろ?
すぐにロッドリングをかざして相棒が治療を施す。濡れた布で流れた血を拭うと、傷痕の確認をしていた。
雌二人は怯えた顔で手を取り合っているが何もできない。ロイスも仔猫を抱き上げて呆然としちまってる。
「はい、これで問題ないはず。あなたも悪いのよ。反省なさい」
「……たい」
「え?」
なんだと?
「痛い! 痛い痛い痛い! 魔獣が噛んだ! 俺を殺そうとしたんだな!」
「そんなわけないよ!」
「絶対に許さないからな!」
そう言いながらクリントって雄は逃げていきやがった。フェリーナとマージも面倒なことになったと思ったのか及び腰になってる。
「ごめんなさい」
「行くね」
「うん……」
まあ、興味本位じゃな。
参ったな。どうにもいけない。
「ごめんね」
悪いとは分かってるな、ロロ?
「うん」
俺からは何とも言えない。こいつの気持ちも分かるし、リーエを守るためなら実力行使もする。ただ、果たして牙を立てるほどだったかといえば微妙な線だもんな。
◇ ◇ ◇
「そんなことがあったんだね」
「すみません。わたしが付いていながら」
「いや、君の所為じゃない」
悪かったな、親父さん。
「リーエは悪くないよ! 僕が!」
「分かっているな?」
「はい……。でも、ロロも悪くないんだ。守ろうとしてくれたから!」
そこで抱き締めて庇っちゃ駄目なんだぜ、ロイス。まず叱らなきゃいけない。それだとお前はここでロロとは暮らせない。
「おかしなことにならなければいいのですが」
俺もそう思うぜ、相棒すりすーりすりすり。
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