ザウバの豊穣祭(6)
豊穣祭
露店の横には大きな鉄板を置いて加熱し、調理風景を見せてる。大麦の皮もクリームも作り置きがあるけど、実際に見せると集客効果があるんだとさ。
俺とラウディもその横で愛想を振りまいてる。こっちは怖がる子供から抱き付いてくる子供まで千差万別だな。少しは役に立ってるだろ。
出足は好調だぜ。絶賛の声があっちこっちから聞こえてくるからな。
客足が少し落ち着いたところでギャスモントがリーエを解放して、普通にお祭りを楽しむように言ってきた。でも相棒は偵察に出る気満々だぜ。
「あ、うん。美味しいのよ。美味しいのだけれど……」
ありきたりだな。
ライバルの商会管理部の商品はチーズクリームパンだった。
上に粗く切ったチーズの欠片を散らして焼いてある。それだけじゃない。中には甘酸っぱく仕上げた濃厚なチーズクリーム。
嚙り付くとまずチーズの塩っぱさががきて、その後に甘味と酸味、コクがやってくる。甘い塩っぱいを畳み掛ける発想は悪くないと思うぜ。人間の雌はこれが大好きだしな。
ただ全体に普通だ。そんで一貫して味がくどい。抜けるところがない。もう一個と思わせてくれない。
「初
商品に今一つ自信が持てないから偵察にきやがったんだな。
次は怖い怖い商店管理部だぜ。予告通りヨーグルトソースクッキーだ。
既に長蛇の列ができている。ただし、回転も良いようで列はどんどんと動いている。これなら客も並ぶ気になるだろう。
そんで問題の商品だが……。
「あっ、これ! そうかー」
こいつは意表をついてきやがったな。
ヨーグルトソースは予想を大きく超えてはいない。思ったよりも酸味を利かせてあるといったところだろ。
問題はクッキーのほうだ。滑らかな舌触りなのにしっかりとしたカシナ小麦の味。バターを強く利かせて焼き上げられていてさくさく。そこまではまあいい。なんだこの香ばしさは。
あれだ。モノリコナッツをかなり細かく砕いて練り込んであるぞ。それが焼かれて豊かで奥深い香ばしさを演出してる。
粉の甘味とバターのコクとナッツの香ばしさ。それらをソースの酸味が一気に流していくから後味はさっぱりに仕上がってるんだ。どうしても次の一枚に手が伸びてしまうっていうリーエの談。
カップのヨーグルトソースが目を惹くから、そこに力を入れているのかと思えば、逆にクッキーのほうに注力されているのが完全に意表をつくな。
量もいい。
これは間違いなく強敵だぜ。その証拠に相棒が夢中になってやがって俺の取り分が少ないぞ。
「美味しい?」
「
お前はなに食っても美味いんだろ?
加工品を食わないラウディも乳製品は食う。チーズの欠片やヨーグルトソースをもらって羽をばたばたさせて喜んでる。
まったく、肉の味にはうるさい癖に、人間の作り出した味には目がないときてる。俺が狩ってきた獲物の肉が美味くないと露骨に不平を漏らしやがるんだぜ、こいつ。
「こんなに美味しいもの、人間社会にしか無いでやんすよ。一生ついていくでやんす!」
本当に安上がりだな。
他部門の露店も回るが、それほど流行ってはいなさそうだ。融資管理部なんか露骨に記念参加感を醸し出して、おざなりな商品になってる。普段は金計算と財務調査しかやってない連中なんだから仕方ないらしい。
商店の出している露店には縛りはないけど、商会の出す露店にはギルドと同じ新商品の縛りがある。でも、一店だけだぜ。各商会はとうぜんのように複数店舗出してくるから、それ以外は人気商品を並べてる。
俺たちはそういう店も眺めながら通りを巡ってる。
すごい人出だな。
「みんな楽しそう。お祭りだもんね」
ここは平和だぜ。
「フィネシア女王陛下の御代になってから、経済発展にすごく力を入れてらっしゃるから、ザウバにはいっぱい商会が入ってきているの。熱心に招致されたのよ」
そうなのか?
「陛下は頑張ってものすごく勉強なさったみたい。それがホルツレインの覇王剣チェイン殿下をお迎えする条件だったんだって。恋焦がれる方を夫に迎えるために努力なさった王女殿下。ロマンスよねぇ」
そういうのに憧れる年頃になったか、相棒。
前にザウバに来た時は露店の菓子にしか興味を持っていなかったのにな。その向こうにまで興味をそそられるようになってきたか。
まあ、おとぎ話みたいな王子様とのロマンスを語っている時点で大人じゃないんだろうけどな。これで身近な雄の評価を口にしはじめたら本気で将来を見据えてるんだと思えるぜ。
指に砂糖付けたまま歩いてるようじゃまだまだじゃん。
舐めといてやるぜぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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