開拓村の魔獣騒動(3)
そいつの名前はロップ。ちょっと離れたところにある開拓村の住人らしい。村では冒険者を雇うかどうか話し合いが行われていて、相場の確認にロップが走らされたのだという。
何
安く済むならと幾ばくかの金は渡されてきたものの、全く足りなかったって言ってやがる。その村の連中、冒険者を嘗めてんじゃないのか? 今までどんな暮らししてたんだか。
「この辺は人間の手が入ってなくて落ち着くでやんす」
お前なりに人間社会での生活は緊張してたのか?
「少しは慣れたでやすが、まだ驚くことが多いでやんす」
「え? あんた、人に育てられたんじゃないのか?」
「おいらは普通に群れで暮らしてたでやんすよ?」
俺が勧誘したんだよ。
「そもそも何なん……、ですか? あなたは?」
警戒しなくたって襲ったりしないから。
ロップの
お前も凶暴だと思われてるぞ、ラウディ。
「ひどいでやんす。こんな善良なおいらを捕まえて」
「いや、俺らは普通、集団で大物狩りとかしないし」
「おいらたちも滅多にしないでやすよ。小物とか草食の連中を狩って食べるでやんす」
温厚で従順な騎乗動物のセネル鳥だけど、こいつらには結構な武器が揃ってる。
嘴の中には小さな牙が見事に並んでやがるし、何より蹴りが怖い。脚の前に出てる二本指の間からは、棘のような形の真っ直ぐな爪が生えてるんだ。
二本指をたたんで蹴りつけると、この爪が深くまで刺さる。こいつらは群れで囲んで蹴りつけることで、大物の魔獣に襲われても返り討ちにして餌にしちまうらしい。
「襲われれば戦うでやすが、わざわざ大物狩りに行ったりはしないんでやんす」
無理に危ない橋を渡る必要もないしな。
「旦那は怖い相手なんかいないでやんしょう?」
「
ラウディと一緒になってからも襲ってきたやつを何匹か退治したからな。俺の能力は分かっただろ。目くらましに遠隔攻撃を織り交ぜればよほどでないと苦戦はしないからなぁ。
相棒は人間同士でしゃべりながら、こっちは俺たちでしゃべっているうちに、例の開拓村とやらに到着した。
「私が村長のクーダスンだが、君が冒険者なのか?」
相棒を小娘だと嘗めてるな?
「フュリーエンヌといいます。場合によってはご相談に乗れると思います。彼はキグノ。わたしは治癒魔法士ですけど彼は
「何だって? 魔獣を連れてきたのか? ロップ、お前は……」
「いや、待ってください。僕は聞いてませんよ。そうだな、フュリーエンヌさん?」
慌ててやがる。
「ええ、言ってません。責任者の方のご判断を仰ごうと思いましたので。言っておきますが、ロップさんが提示した金額では戦闘系の冒険者の一人さえ雇えませんよ」
考えが甘いんだよ。
「でも、お困りのようなので協力したいと思いました。もしキグノに頼るのがお嫌でしたらすぐ立ち去ります」
「ううむ、困っているのは事実なんだが……」
「達成報酬で構いません。金額も相談に乗ります。どの程度の手間の掛かる問題かも分かりませんので」
ずいぶんと譲歩したぜ。どうするんだ?
村長はロップを呼んで内緒話を始めた。どうせ相場を聞き出してるんだろ。出せる金額なら
「ちょっと皆と相談させてくれ。その間にロップに案内させる。このトワド開拓村の状況を知ってほしい」
「分かりました。じゃあ、ロップさん、お願いします」
ロップと村の中へと進んでいく。
こりゃ、リーエは拒まれない限り最初から何とかしてやる気なんだな。ステインガルドみたいに辺鄙な小さい村だから同情してんだろう。
「被害はどんな感じなのでしょう?」
「ああ、野菜を齧られたり、家を引っ掻かれたりしてる」
「え?」
は? 野菜を齧る? 魔獣が?
「えっと……」
「いやいや、
「はい?」
「他の家畜が殺されたり、その、誰か傷付けられたりは?」
「そこまでは……」
おいおい、雲行きが怪しいぜ。
危ぶむような具体的な被害は出てないじゃん。それなのにこの血の匂いは何だってんだ?
「あの、あれは何です?」
「何ってネズミだよ。畑で殺した分は埋めるけど、村の中で殺した分はあそこに集めてる」
「……害獣対策はされていないんですか? 犬とか猫とか」
飼うもんだろ? 倉庫の作物食われちゃ敵わないだろうし。
「そんなの世話している余裕なんてない。ここは開拓村なんだよ?」
「わたしも辺鄙な場所にある小さな村の出身ですから知っています。普通は開墾と並行して害獣対策も進めるものなんです」
「え、そうなのか?」
なんでそこで意外そうなんだよ。妙だぞ、相棒。
意見は同じだな。手汗が出始めてるぜぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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