開拓村の魔獣騒動(2)
「それでご主人と一緒することになったんでやんすか? 長いんでやんすね?」
まあな。兄弟みたいなもんだ。
「でも、二属性持ちとかすごいでやんす」
そりゃ、お前の仲間にもいるだろ?
「聞いたことはありやす。でも、会ったことはないでやんすよ?」
そうなのか? 珍しいほうなのか。
結局、ずっと相棒と人間の世界で暮らしてたんだからな。複属性セネルの話だって人間の噂話で聞いただけで、自然の状態でどうかなんて俺も知らなかったんだ。
ところでお前、急にいなくなって心配するような奴はいなかったのか? 群れで暮らしてたんだろ?
「家族はいるでやんすよ。でも家族も群れもそんなに結びつきが強いもんじゃないんでやんす」
「特に雄は気分次第の思い付きで群れを渡ったりするんでやす。今頃、おいらは別の群れに渡ったんだと思われてるでやんすよ」
不都合が無いんなら俺は助かるけどな。
「旦那は優しいんでやんすね? おいらに気遣いなんて」
こっちの勝手で引き込んだからな。
「もー! また二人だけでしゃべってるー! なんか仲間外れみたいでいや!」
そう言うな、相棒。俺たちが何話してるか分からないんだから仕方ないだろ?
「キグノが誰に話し掛けてるのかは何となく分かるけど、ラウディのはまだ分かんないんだもん!」
ラウディはまだ人語の聞き取りのほうも怪しいからな。
リーエがやきもち焼いてる。お前とも話したいんだとさ。
「嬉しいでやんす。ご主人はなんかいい匂いがして堪んないんでやす」
ラウディが鼻をすぴすぴと鳴らしながら振り向いて相棒に頭を擦りつける。すると途端に機嫌が直ったリーエは抱きしめて嘴を撫でたりしてる。
「えへへ、わたしとも仲良しー」
思いっ切り嗅がれてるけどな。
「もうちょっと待ってね。次の大きな街に着いたら必ず鞍を買ってあげるから」
鞍……、背中に乗っかる道具を買ってくれるって言ってるぞ。
「
ちょっとだけだぜ。
それまでぽてぽてと歩いてたラウディがたったか走り出す。それに合わせて俺も走らなきゃなんないから、長距離は勘弁してほしいもんだ。
「速い速いー!」
楽しそうだから、たまにはいいけどな。
◇ ◇ ◇
大きめの街は人間も多くて、一人と一匹と一羽で歩いていてもそう目立つもんじゃない。俺が馬具の店の軒先に座ってたって何か言う人間もいない。
「ほお、立派な属性セネルじゃないか? 高かったんじゃないか?」
「はぁ、まあ。それよりとっても良い子なんですよ? お気に入りなんです」
誤魔化したな、相棒。確かに天然物の属性セネルなんてほいほい拾えるもんじゃないしな。田舎者でも、子供の頃の旅暮らしでそれくらいの常識はある。
「そうかい。高い買い物だから大概は鞍くらいはサービスで付けてくれるもんなんだがな。言ってみなかったのかい?」
「あはは、ほとんど直感で決めちゃったから気が回りませんでした」
「足元見られたんじゃなかったらいいんだがな」
選択肢は無かったけどな。
「この子に合う装具を一式見繕っていただきたいんですけど?」
「任せな。嬢ちゃん、可愛いからサービスしてやるぜ」
色気を出すな、主人。店の奥で嫁が睨んでるぞ。
「一応訊いてみるんですけど、犬用の鞍ってあるものなんでしょうか?」
まだ訊くのかよ!
ラウディの装具を一揃い出してもらって、欲しがる物を全て購入する。こいつもリーエの言うことが大筋で理解できるようになってきているのに、
多少の調整が必要だってんで、店の近くをうろうろして露店を覗いて回ってる。
「
「どうしたの、ラウディ? そんなに騒いで」
そんなに美味いか、
売られている果物なんかは大概は栽培されてて人間用に改良されているから味はいいんだろう。
パンとか焼き菓子とかも一切食わない。あんな甘くて美味いもんを食わないのに、果物をありがたがるとか味覚が違うとしか思えないな。
そのあと、調整の済んだ装具をラウディに着けて一路冒険者ギルドへ。ここまでの対面契約書を精算しなくちゃならないからな。
そんで新しい対面契約書を束で買い込む。書式もあって、自作でも構わないんだけど相棒の場合は使用量が違うから、元手はかかるが購入で済ませてる。
諸々終わらせて依頼掲示板のほうを見ると人影がある。どう見ても冒険者っぽくはないが、それほど珍しい光景でもないんだぜ。
普段あまり冒険者を雇わないような奴は相場を知らないから、掲示板のとこに引っ掛かって眺める羽目になるのさ。
「どうかなさったんですか?」
気になったんだな、相棒。
「ああ、その……、村に魔獣が来るようになって討伐してもらおうと思ったんだけど、どのくらい費用が掛かるのかと思ってね」
「それはお困りですね」
「参ったな。案外高いものなんだな」
戦闘系は命がかかるからお高めだろ?
「よろしければお話伺いますけど?」
お人好しだな、相棒。手にはカシタンの匂いが付いたままだけどなぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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