冒険者フュリーエンヌ(8)

 隔絶山脈の山中でのんびり閃獅子フラッシュメインの皮剥ぎなんかしていられないじゃん? だから魔核と討伐証明部位だけ切り取って済ませる。証明部位をギルドに持ち込んだだけで討伐賞金が支払われるんだとさ。


 それから少し登ったところで、満を持して依頼の遺跡の探索になる。


「ここ、武器研究所って触れ込みなのよ。楽しみー」

 それで、あれだけの人数がやられてんのに性懲りもなく探索依頼が出てたのかよ。

「僕たちのような人間にはそのものが宝箱みたいなもんだね」

「武器なのに、ドメイブさんまで期待しているんですか?」

「ロッドも武装の範疇に入るからね。掘り出し物があるかもしれない」

 子供みたいにわくわくしやがって。

「確かにな。期待できる」

 おう、急にふた言もしゃべったらびっくりするじゃん、ホルコース!


 ところが茂みを抜けて開けた視界で確認できるのは、まさに遺構と呼べるもんだった。基礎だけで建物なんて残ってない。

 露骨に落胆する面々が遺構の中を歩き回るが、見つかるのは建物のがれきと原型の定かでない金属の錆の欠片くらい。風雨にさらされて何も残ってないってオチか。


「あーあ、空振りか。やっぱり時間が経ち過ぎてたのね」

「よくあることなんですか?」

 初心者には分らないよな、相棒。

「遺跡探索って賭けみたいなものなのよ。高品位魔石は手に入ったし、討伐賞金も入るからよしにする?」

「それはちょっと諦めがよすぎるんじゃないかい?」

「でも何も無いし」

「こういう場合はここ」

 下を指差すってことは地下か?

「それは僕も考えました。一応、地下室の入り口も探したんですよ」

「普通の地下室なら平地でも構わないのさ。山腹を選んだって意味を考えてみたら?」


 皆がノインの視線を追ってる。その見つめる先はより高いほうだ。

 山腹を削って建てられていた建造物は、一面を山に接していたらしい。その壁面がある。


「地下といっても横も有りなのか!」

 そう言われりゃそうだな。

「冴えてるぅ!」

「協力してよ、キグノ。ちょっと範囲が広すぎる」

 了解だ。


 俺は山腹の壁面をずっと嗅いで歩く。すると確かに一ヶ所だけ湿っぽい空気の匂いがする場所があるじゃん。


「ここなの、キグノ?」

 この辺だと思う。外れたらごめん。

「じゃ、この辺りのがれきを魔法で吹き飛ばしてもらおうかな?」

「僕の出番か」


 ドメイブが魔法でがれきを取り除くとそこに鉄扉が現れる。鉄扉をこじ開けた先には斜めに下りる通路があって、その先は色んな武器がぽつぽつと並ぶ部屋があった。こいつらにとって宝の山なんだろうぜ。


「隙間が有るから高度な技術の投入された物は撤収されてるみたいだね」

「それでも十分すごそうなのが並んでるじゃない! やったー!」

「これはひと財産になりそうだ」


 フリュンクは飛び跳ねて喜び、ドメイブもホルコースと挙げた手を合わせてる。ノインはもう物色を始めてるから、取り残されたのは相棒だけだ。未だにピンとこない顔をしてんな。俺にも価値が分からないもんな。


 それぞれが自分に合う得物を見つけてはしゃいだ声を上げる。換金できそうな物は集めて山にして、空いた場所で目をきらきらさせながら眺めまわしてる。子供か!


「これはすごい。魔石が三つも付いてる。魔力絶縁してあって、独立して魔法構成を待機できるじゃないか。慣らしたら戦力として大きな効果が見込めるぞ」

 変な形のロッドだな、ドメイブ。

「見てよ、この長剣の剣身の美しさ。何百? 何千? 放置されてたなんてとても思えないわ!」

「良い……」

 感動した時くらいしゃべれ、ホルコース。


 ノインは色んな武器を確認しながら山に加える作業ばかりしている。


「ノインさんは気に入った武器は無いんですか?」

「そろそろ気軽にノインって呼んでくれる? ここにあるのは今僕が装備している剣より良さそうな物はないかな」

 あの薄っすらと青みがかった剣、めちゃくちゃ斬れそうだもんな。

「売れば良い値になりそうな物ばかりだから、そんな顔しなくたって損はないよ」

「でも、苦労したのに……」

「十分面白かったさ。それに、これ」


 リーエに向けて差し出したのは反転リングに似た腕輪バングル状の物。ノインは手を取ると相棒に握らせる。


「君にぴったりだと思うよ?」

「えっと、これ、反転リングじゃないし装飾品?」

 見たこともないもんだなくんかくんか。

「それは腕輪だけどロッドだね。魔法士の装備さ」

「はい? これ、魔石なの?」

「ん? どれどれ?」

 魔核みたいに灰色じゃないじゃん?

「本当だ! これは魔石だ! まさか噂に聞くあれなのか? ゼプルからいくつか流出したっていう人工魔石! 極めて高性能だって話だけど?」

「そんな高価そうな物、受け取れない!」

「いいや、探索に参加したんだから受け取る権利があるね」


 棒状になっていないだけで、構造はロッドと同じらしい。腕輪を通して魔法構成をその魔石に書き込めるんだとさ。


「それに君の瞳と同じ琥珀色でお似合いだと思わない?」

「確かにね。僕はこのロッドで満足だ」

「そうそう。ちゃんと分け前は等分じゃないとね?」

 頷いてるな、ホルコース。もう諦めたぜ。

「うん。これはロッドリングってところかな。矛盾した名前だけど、持ち歩きには便利だと思わない?」

「ありがとう、ノイン。見つけてくれて」


 素知らぬ振りしやがって。これ、ここに有ったもんじゃないだろ? お前の匂いがべったりと付いてるぞ、ノイン。こりゃ今付いたようなもんじゃない。

 なにウインクなんて寄越すんだ? 黙ってろってか? まあ、相棒が喜んでるし、怪しいもんじゃなさそうだからいいけどな。


 相棒、ロッドリング見せろ。匂い付けだぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。

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