冒険者フュリーエンヌ(7)
勝ち誇っている俺がようやく相棒のほうを見ると、ちょうど若い雄の
食らえ!
「ぐげっ!」
背中に突き立った
周囲にも獅子の亡骸が結構転がってるな。ひとつ、ふたつ……、五つあるから今の奴でお終いか。
「キグノ、今のなに?」
そんなにふくれるなよ、相棒。ほら、ちゃんと舐めてやるからぺ……。
うぐぅ、鼻面を両手で掴まれたら舐められないだろ? 放してくれよ。
だが、両膝を突いて視線を合わせたリーエはがっちりと掴んで放してくれない。責めるような琥珀色の瞳が俺を捕らえてる。
「あはは! 放してあげなよ、リーエ。困ってるよ、彼」
「でも、こんな変な魔法、今まで使ったことないんですよ?」
本当は相棒以外の人間が居るところで絶対に使いたくなかったんだよ。
「その秘密は今から教えてもらおうじゃないか? それでいいだろう?」
「……はい」
それは助け舟になってないじゃん、ノイン。
俺は座ったリーエとノインを前に、フリュンクたちに囲まれている形になってる。おいおい、時に好奇心は良い結果を産まないって聞いたことないのかよ?
「君は土属性の魔法が使えるね?」
正解だつんつん。膝をつつけば分かるだろ?
「でもキグノは
「正確に言うと
つんつん。
「リーエは彼の両親を知っているかい?」
「いえ、母犬だけです。でも、闇犬に見えましたけど」
目の前で殺されたとは言わないんだな。気を遣ってくれたか。
「じゃあ、父親は知らない。きっと父親が土属性魔獣、それもこの姿からして狼系魔獣、つまり
……つんつん。あくまで推察だがな。
俺が居た
たぶん、お袋はそのうちの一頭に惚れちまったんだろう。群れにも不満が募ってたお袋は、その狼に腰を振って誘ったんだろうな。結果として産まれたのが俺だ。おそらく親父は
「でも、もし仮に混血だからといって、姿はともかく属性まで受け継ぐものなんですか?」
「あまり聞かないね。キグノみたいに姿は狼寄りになったとしても、属性は母系に寄ることのほうが多いって聞いてる。自然状態での混血は忌避感があるらしくてね、確認できる事例が少なすぎて確証はないけど」
そういうもんか?
「ただ、属性セネルのように複数属性を持つ個体も稀に見られるんだ。それはたぶん混血のうえで発生しているんじゃないかって説がある」
「じゃあ、キグノはその自然界では極めて稀な例だと思ってるんですね?」
「うん。だから彼は群れに居られなかったんじゃないかな?」
つんつん。
「そんな……。キグノは同種の群れから追い出されて、私のところに来てまた人からも追い出されてしまったんじゃないですか? わたしなんかよりずっと辛い思いを……」
気にすんなよ、相棒ぺろぺろ。
お前と出会えたのはすごい幸運だったと思ってるんだぜ。雨に濡れずに眠れる場所があったし、美味いもんをたらふく食わせてもらったし、人間の世界の色んなもんも見て回れたし、楽しい事のほうが遥かに多いじゃん。
それに家族ができたぺろーん。
「どうしてわたしを慰めようとするの? 辛いのはあなたなのに」
「彼は優しいね。そんな過去より君のほうが大事らしい」
「神様、ありがとう。キグノに会わせてくれて。彼と暮らせるならもう何もいりません」
そんなに締め付けるな、リーエ。自慢のたてがみが乱れちまうだろ。
「君の大切な家族は、いうなれば
つんつん。見透かされているようで腹が立つが、お前は頭が切れるな、ノイン。
この土属性魔法で遠隔攻撃も可能だから、たった一匹でもステインガルドを守っていられた。それに関しちゃ、俺も神様に感謝しなくちゃならないな。
「すごい子だったのね、キグノは。あの大型の
成り行きだ。頼むから気にすんな。お前に抱き締められると俺の身がヤバいんだ、フリュンク。
「興味が湧くんだけど、助けてもらった以上は敬意を払わないとね」
「すみません。このことは内緒にしてください」
「そうするよ」
頼むぜ、魔法士さん。
「…………」
って、頷いて俺の背中を叩くだけかよ! しゃべれよ、ホルコース、尻尾ぺしぺし!
だから俺の鼻にキスしても味は付いてないぞ、相棒。舐め返すだけだぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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