冒険者フュリーエンヌ(4)

「なるほど、これまでは村の治癒魔法士をしながら、定期契約の治療院で働いていたんだ。ところで実力のほどはどうなんだい?」

 当然の疑問だな、魔法士ドメイブさん。

「子供の頃はすごく才能があるといわれましたが、実力を磨くわけでなくずっと村で暮らしていたので今は普通なんじゃないかと?」

「少し頑張ってみるといい。才能があれば治癒専門で十分にやっていけるよ」


 冒険者登録をした町の食堂でテーブルを囲んでいるんだけど、さすがにいぬ用のメニューまでは無いから寂しいぜ。仕方ないから相棒が反転リングから出してくれた肉を齧ってる。うーん、この猪肉は熟成されててまろやかじゃん。


「分からないなら試してみればいいさ」

 おい、無茶すんな! メシ食うのに使ってるナイフを拭って手を引っ掻くか、ノイン?

「何やってんのよ?」

「大変!」


 リーエは慌ててロッドを取り出すが、フリュンクは苦笑いしてやがんな。こういう突飛な行動が多い奴だってのが知れ渡ってんのか?

 ロッドを触れさせて治癒キュアを発声すると、兄ちゃんの傷はすぐに塞がり痕も無くなる。その程度の切り傷なら相棒の魔法で一発だぜ?


「なんだって?」

「おお……」

 久しぶりにしゃべったと思ったらびっくりしただけか、ホルコース!

「これ、傷跡も全然残ってないわよ? ドメイブより優秀じゃない」

「経歴を考えるとすごい才能だね。痛みも全く残ってないんだよ」

「そうなんでしょうか?」


 とか言いつつ、なんで血の出た手を俺に差し出してくるんだよ。舐めろっていうのかぺろぺろ。血なんてそんなに美味いもんじゃないんだぜぺろり。栄養はあるけどなぺろぺろ。


「掘り出しものじゃない……?」

 しばらく無言だったぞ。そりゃリーエの治癒は優秀だがな。

「回復系のメンバーとして十分過ぎるくらい」

「効果はそうだね」

「ねえ、リーエ。今度の依頼、遺跡探索行なんだけど後衛の補助として加わってくれない?」

 おいおい、物騒な依頼だったじゃないか。変なことに巻き込んでくれるなよ。

「難易度高いだけに、きっと危険は避けられない。回復専門がいると心強いんだけど考えてくれない?」

「わたしなんかでお役に立てるんでしょうか?」

「もちろん! こんな有望な治癒魔法士、そんなにいないから。さすが私の妹!」

 誰が妹だ、誰が!


 フリュンクを始めとした三人は腰を浮かして相棒を見てる。

 話の流れからしてこれまではドメイブが回復も兼ねていたみたいだけど、治癒の効果はリーエほどじゃなかったみたいだな。魔法士としては矜持を傷付けられた思いかもしれないが、依頼の危険度を考慮したら認めざるを得ないか?


「まあまあ、フリュン。それはちょっと勇み足だよ」

 さっさと諫めてくれよ、ノイン。

「彼女には戦闘メンバーとしては致命的な欠陥がある」

 だろ?

「どこが問題なんだい、ノイン」

「リーエは自分の村や治療院で患者を前に治癒キュアを使ってきたのさ。だから患部への接触発現しかやったことが無い」

「あ!」

 早く気付いてほしかったぜ。


 ノインが言う通り、治癒キュアはロッドを接触させて発現させるもんだと相棒は思ってる。魔法の教本には遠隔発現も書いてあったけど、必要じゃなかったから読み飛ばしていただろうな。


「遠隔発現が、できない……?」

「あ、はい。やったこと無いです。そういえば教本にも書いてありましたね」

 憶えてたのか。

「そう、この子は講師についていた期間も短いみたいだ。そこまで習ってないんだろうと思ったのさ」

「それじゃ戦闘が予想される場所に連れていくのは危険過ぎるな」

 魔法士として真っ当な意見をくれて助かったぜ。

「近接戦闘無理なのはメイブと一緒! 私の後ろに隠れてればいいの。回復が必要ならそこへ戻ればいいんだから」

「まあ、そうなんだが……」

 それを言われると辛いところか。

「あながちそうとも言えないよ。僕は彼女が遠隔発現ができない・・・・とは言ってない」


 おいおい、雲行きが怪しくなってきたぜ。ろくでもないこと言い出してくれたな、兄ちゃん。ほら、三人が期待に満ちた目付きになっちまっただろうが。


 そんなこんなで、町外れに移動して練習が始まった。嫌な流れだ。


「水系魔法士なんだから水くらいは出せるだろう?」

「はい、水球スフィアなら。あとは消毒ディシン解毒デトキシとか治療に使える魔法は使えます」

「回復系としては十分だな。それをロッドの先じゃなくて目標地点で発現させるだけ」

 できる奴は簡単に言うよな?

「それじゃちょっと難しいかな? 標的を置いたほうがいい」


 ノインは木製のコップをひょいと取り出して、半ルステン6mほど離れた場所に置く。こいつ、『倉庫持ち』か。


「この中に入れるつもりで水球を出して」


 相棒は頷くとイメージを形作るようにロッドを翳して睨み付ける。少し時間は掛かったが、水の玉ができあがってコップの中に落ちた。


「上出来上出来。じゃあ、同じ要領で僕に治癒を飛ばしてみてくれる?」


 今度はその隣の自分を指差している。導き方が上手だな。


「きてるきてる。疲れが癒えていい感じだね」


 治癒キュアとなると慣れているだけ発現が早いみたいだな。魔力のうねりをリーエから感じると、すぐにノインは魔法の発現を感じたらしい。


「訓練の必要もないね。あとは慣れるだけ」

「わたし、こんなことができたんですね」


 相棒の顔は驚きに満ちている。自分の能力に初めて気付いたんじゃ仕方ないか。 しかし、余計なことを教えちまいやがって。


 ノイン、この野郎、尻尾ぺしぺしぺしぺしんぺしぺし。

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