冒険者フュリーエンヌ(3)

「なんの手間も要らないね。冒険者登録するだけで、いつでも好きな時間を使って治癒魔法士として仕事ができるよ」

「え、そうなんですか?」

 確かに手間じゃないが、そんなに自由なもんか?

「知らないかもしれないけど冒険者ギルドには、魔法士ギルドに所属していない魔法士が大勢いるのさ」

 縁が無かったから、相棒も知らないだろうぜ。

「魔法士ギルドっていうのは互助組織と銘打っているけど、実際には研究機関的色合いが濃くてね、そんな堅苦しさを嫌う魔法士は冒険者ギルドにしか登録していないんだ。別にそれでも生計を立てているよ?」

「でも、わたし、ほとんど治癒専門なので戦闘なんかできませんよ?」

「戦闘技能なんて要らないわよ。ギルドには流しの治癒魔法士もいるから」

 姉ちゃんまでってことは、割と普通の話なのか?

「流し? そんな治癒魔法士が?」

「ああ、こっちの世界なら常識なんだけどね?」


 ドメイブって名乗った魔法士が言うんだから信憑性は高い話なんだろう。

 都市や街、村でも大きければ治療院はある。だが、病人や怪我人が出るのはそういう場所だけじゃない。むしろ怪我なら旅先のほうが危険は多いといえる。

 そんな場所で治療を受けるんなら治癒魔法士もしくは治癒キュアも使える魔法士に頼むしかない。だが、魔法士の側もただ働きは堪らない。貴重な魔力を割くんだ。対価は欲しい。当然じゃん。


「普通に金銭のやり取りをするわけでは?」

「それも無くはないんだけどね、もっと利口なやり方がある。対面契約さ。適正な対価を得られた上に、ポイントも手に入る。ポイントを重ねれば冒険者ランクも上がる。そういう治癒魔法士は信頼されて、ほうぼうで声が掛かることになるね」

 好循環ってやつだな。

「そんな仕組みがあるんですね?」

「自然にできあがった仕組みだよ。社会の需要に支えられてね」


 相棒は感心しきりだな。道が見えてきて、瞳がきらきらと輝いてんじゃないか。


「辺境に巣食って法外な対価を要求する裏の治癒魔法士なんてのも居ることは居るけどね、流行らないわよ。普通の魔法士が居るだけで商売にならなくなるもの」

「そうなんですねぇ。わたし、流しの治癒魔法士になります! 普通の!」

「いい子ね。お姉さんが登録について手取り足取り教えてあげる」

 妙なことまで教えそうだからやめろ。

「心配しなくても、フリュンにだけ任せたりはしないさ」

 頼むぜ、ノイン。信用するから。


 俺の横で声をひそめて言うから、尻尾で足を撫でておいた。


   ◇      ◇      ◇


 そこからは五人と一匹になって次の町の冒険者ギルドへと目的地を定める。


「へえ、じゃあノインさんは協力メンバーなわけなんですね?」

「そう、私たちだけだと今度の依頼は心許ないからねぇ。助っ人に入ってもらってるの」

 剣士のホルコースはうんうんと頷いてるだけ。たまにはしゃべれ。


 そのホルコースとフリュンク、ドメイブが普段組んでるパーティーなんだそうな。

 そこへ拾い物のような依頼を手にしちまったらしい。かなり高難度と思える依頼で、とても自分たちだけで達成はできそうにない。そこで偶然知り合った高ランク冒険者であるノインに助っ人を頼んで臨時メンバーに加入してもらったって経緯なんだとさ。


 ちなみに三人はハイノービスってランクで一般冒険者の部類。ノインはハイスレイヤーだから一級冒険者らしい。

 冒険者ランクは下からビギナー、ローノービス、ノービス、ハイノービスまでが一般冒険者で、証明になる冒険者徽章に填められているメダルの色は白。

 続いてスレイヤー、ハイスレイヤーは一級冒険者になり、メダルの色は銀色に上がる。この等級になると依頼の奪い合いに参戦しなくても、ギルド側から斡旋依頼も入ってくるそうだ。

 さらに上にリミットブレイカー、ドラゴンスレイヤーなんてランクもあって、メダルの色は黒なんだって。そこまで等級が上がると通称ブラックメダルと呼ばれて敬意をもって迎えられ、発言力も大きくなる。普通は自分から依頼を受けにいかずとも冒険者ギルドが高難度依頼を差し出してくるみたいだな。


「それなら皆さん、わたしなんかに関わっている暇なんてないんじゃないですか? 自分で頑張ってどうにかしますので、置いていってくださって結構ですよ。教えていただきありがとうございました」

「そんな無下になんかできないわよ。心配しなくていいから。未帰還者が続出しているような依頼なんだもの。達成を競い合うような状態じゃないのよ」

 えらく物騒な依頼なんだな。それで助っ人か。


 そんな話をしているうちに宿場町の一つに到着した。冒険者ギルドに直行して相棒の登録を済ませる。

 リーエは晴れやかな面持ちで冒険者徽章を首から下げている。填まっているのはもちろんビギナーランクの白いメダルだけどな。それでもずいぶんと嬉しそうじゃん。たぶん一つ大人になったような気分なんだろうな。


 その相棒は今、首っ引きで手渡された冒険者の心得や規約が書かれた皮紙を熟読してる。まったく生真面目なんだからさ。一緒のテーブルに着いた四人が可笑しそうにしてるぞ。


 気付けよつんつんぺろぺーろつんつん。

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