ステインガルドの危機(5)
漏出魔力を狙って火球を吐いてくるボス。だが所詮は当てずっぽうな攻撃だ。俺は軽やかな足運びで躱すと目潰しを仕掛ける。
それも予想範囲内だったんだろうな。ボスも一ヶ所には留まらずに目潰しを躱しやがった。
俺が目潰しを掛けた奴はほとんど冒険者たちが倒してくれたな。だからもう立っている
今度は火炎を吐いて薙いできやがった。ジャンプして躱すと、上に向けて火球を数発撃ち込んでくる。何とか身を捻って躱したが、かすって毛が焦げちまったじゃないか。熱ぃ!
戦い慣れしてやがる。伊達にボスはやってないってのか? でもな、俺だって何
俺は意図的に幻惑の霧を薄める。どうだ、俺が見えるだろう?
「魔力切れか!? バカめ!」
そう思うか?
逃げ場を無くすように火球を撒いたボスが、俺の喉笛を狙って低く迫ってくる。その顔面に向かって目潰しを大量に吐きかけてやった。
「なにっ!? ぐおっ!」
掛かったな。
ボスは他の目潰しを食らった炎狼どもと同じように、鼻面を掻きむしってる。そんなんで俺の魔法が引き剥がしたりできるかよ。
幻惑の霧を解いた俺は、横からその喉笛に食らいついてやる。そのまま地を蹴って身体を浮かして押し倒すと、宙で錐揉みをしてボスの喉に牙を抉り込ませた。
「ぐおおおー!」
どうだ? これなら図体がでかくて頑丈なお前でも終わりだろ?
飛び散った血で汚れた口を舐めるぺろり。
太い血管を食い破られたボスは大量の血を撒き散らしながら痙攣し、動かなくなった。勝負あったか?
もう数えるほどになっていた炎狼が泡を食って逃げ出す。これで二度と俺の前には姿を現さないだろう。
夥しい数の炎狼の死体の真ん中で俺だけが立っていた。
◇ ◇ ◇
「キグノ!」
おう、そんなに抱き付くなよ、相棒。俺にとってはこれくらい楽勝だぜ。
「火傷してる」
それを言ってくれるな。我慢してたのに。
リーエに
「それは君の犬なのか?」
「私の大切な家族です」
冒険者を警戒した声を出してるな。
「それが何だか知っているのか?」
「ええ、キグノは
「闇犬だって? いや、それは
確かに
でも見てみろよ。俺の瞳は藍色だろ?
「そうなのか……」
納得してないな? 俺の顔を覗き込んだだろうが?
「でも悪い魔獣じゃありません! 人を襲ったりはしませんし、こんなにわたしと仲良しです!」
腹の毛までわしゃわしゃすんな。くすぐったいだろ。
「どうしたもんかな?」
なんだよ、頭を掻いて。
「なあ、闇犬くん。お前は魔石や金とか要らないだろう。もらってもいいか?」
炎狼の魔核が欲しいんだな。そんなもん、くれてやる。
「よし。回収しようぜ!」
俺が鼻面を反らして見せると、冒険者連中は手に手にナイフを持って炎狼たちの解体を始めた。金目の物は根こそぎか? 逞しいな。
相棒は安心して胸を撫で下ろしている。でもな、正念場はこれからだぜ? 見てみろ。村の奴らはまだ武器を持って俺を警戒しているだろ。
「ど、どういうことだね、フュリーエンヌ? お前さん、魔獣を飼っていたのか?」
まあそうなるわな、村長さん。
「違います。確かにキグノは闇犬ですけど、一緒に暮らしてきた家族なんです」
「じゃが、魔獣であることに変わりはない。この、村の惨状を見て何とも思わんのかね?」
「……どうして」
そりゃ難しいってもんだろうなぁ。
ここ五
甘やかしすぎたかなぁ。でも、相棒を危険にさらすなんて考えは持てないじゃん。俺にとっても大事な家族なんだからさ。
「なんでそんなに手の平を返したように、キグノを敵みたいな目で見るんですか!? わたしが村に戻ってからの五
仲良くもない奴まで大事に思っちゃいないが、傷付ける気はないな。
「それでも危険な獣であることに変わりはないんだよ。いつ人間を襲い出すか分からないだろう?」
その頃になると村長の家から村人たちがぞろぞろと姿を見せ始める。村の惨状を嘆いて、事情を知る者から耳打ちされて俺を睨み付ける者も現れる。どうにも逆風が強過ぎるみたいだな、相棒。
「ねえ、ハリス。あなたは外から来たんだから、最近は安全な魔獣と暮らす人が居たり、色々と役に立ったりしてくれているのを知ってるよね?」
「ひっ!」
リーエが俺を連れて近付こうとすると、ハリスは腰を抜かして後ずさりを始めちまった。そんなんじゃダメだ。相棒の気は惹けないぜ。
「どうしてキグノをいじめてるんだよ!」
コストーか。無事だったんだな。
「いじめちゃダメ!」
「ダメー!」
ルッキとパントスも一緒か。
やってきたレイデたちには、モリックが駆け寄って現状を説明してる。それを聞いても三人は離れようともしない。
ありがとな、お前ら。お礼だぺろぺろぺろぺーろぺろぺろ。
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