第2話 サキュバスの業界事情

サキュバスというのは大変なお仕事です。


日々の業務は、下界に降りて男の人間の寝込みを遅い、

『精気』を徴収して魔界に持ち帰ること。


新米からベテランまで様々なサキュバスが、

ノルマを達成すべく、毎晩世界各地を飛び回っています。


精気は魔界の主なエネルギーの一つで、これが枯渇すると魔界の経済は回りません。

近頃は良質な精気が不足してきていて、上流階級の悪魔さん達もお怒りのようで。

そのしわ寄せが私たちサキュバスへのシビアな要求となって降りてくるわけです。


元々サキュバスは魔界では華のある職業の一つで、

私もそこに憧れて門を叩いた小悪魔でした。


研修を終えてから下界に降りて徴収をこなしてはいるのですが、未だにろくな精気を持ち帰れていないということで、上司には怒られるし、後輩のスーパー新人にはあっさりランクを抜かれるしで、正直この仕事向いてないのではないかと最近悩んでいます。


ていうかそもそも、ろくな精気ってなんですかね。

人間の性欲を刺激して精気という名の生命力を徴収する。

サキュバスの仕事って結局それだけの作業なんじゃないでしょうか。

その排出物になぜ良し悪しが生じるのか、私にはさっぱりわかりません。



一昔前は人々の信仰心が厚い時代というのがあって、

特にヨーロッパあたりでは質の高い精気が容易に徴収できていたといいます。


その時流に乗って大出世した者、自分の魅了を制御できずに発狂した者、

徴収では済まず精気を奪い尽くしてしまう者など、

豪華絢爛というか狂喜乱舞というか、とかくそういう時代があったのだとか。


ただ、あまりに行き過ぎてサキュバスのブランド(?)に傷がついたとか、

畏怖や信仰心のさらなる低下に繋がるといった事情で、今は魔界もコンプライアンスが厳しくなって、対象者の生命まで吸い尽くすのはご法度になったりしています。


でも同時に、一定量の質と量は確保しろと言ってくるわけですね。



まあ、そんなバブリーな昔話を先輩方から聞かされる世代が私たちなのですが、

今の時代の人間さんを見ると、眉唾のような話です。


私の担当区域はニホンという島国なのですが、正直この国の精気の味は酷いです。


性観念の乱れだか何だかわかりませんが、

摂取した瞬間から腐った血液みたいな味がするし、持ち帰っても日持ちしないし、まともな精気に当たったことがありません。

仮に吸い尽くしていいと言われても確実に吐きます。


まあそれで私はいつも怒られているわけなんですけど。



魔界で保存されている精気はサキュバスに支給される食料にもなるので、

私程度でも一応味の違いくらいはわかります。


あるベテランの先輩が昔持ち帰った精気があるのですが、未だに枯渇することなく、

主に魔界の経済の原動力となり、稀に私たちにも好サンプルとして振る舞われます。

(確かその精気の持ち主は後に人間界の歴史に名を刻む業績を残したのだとか)


これが非常に美味しいのです。

口にした瞬間、体が火照って、胃の中が宝石箱になるのです。

あれ、また食べられないかなぁ。


ちなみにその先輩は、今は別に下界仕事をする必要もないくらいの地位なのですが、

休日に好き好んで各地に降りていっては、良質な精気を勝手に持って帰ってきます。


「魔界に持ち帰る前に最もナマな状態で試飲できるのがサキュバスの特権でしょ!」

と豪語しているので、ナマ先輩と呼ばれています。


問題はナマ先輩はなぜことごとく美味しい、いや、質のいい精気を入手できるのか。

ニホンでも何度もヤッたと思うんですが、この淀んだ国のどこにそんな精力があるのか。


聞いてみても、「気合いよ、気合い」の一言で終わるので、全く参考になりません。


やっぱり対象となる人間さんの素質とかが重要なんでしょうか。



ああ、また明日は徴収の日です。またダメなやつだったらどうしよう。

魔界にも貢献しないし、私はただ不味いもの食わされるだけだし、

何なんですかね、この仕事。

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昨晩のサキュバスはいかがでしたか? だんや @yuura1714

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