昨晩のサキュバスはいかがでしたか?
だんや
第1話 規則をこなすだけのサキュバスは3流
「つんつん、ツンツンツン」
「ん……あ?」
「あ、どうもこんばんわ」
「ん、ん…?誰?」
「あ、私サキュバスのフェリと申します」
今夜のターゲットはこの人間さんです。
筋肉質で引き締まった肉体、性欲旺盛であろう年齢、滲む男性ホルモン。
これならさすがに淀みの少ない『精気』が得られるはず。
いい獲物を見つけました。
研修で教わった基本通り、透過しやすい窓ガラスをすり抜けて侵入。
精気の徴収を始めたばかりの頃は、ゴンゴンぶつかったり、途中で体がハマって抜けなくなったりしましたが、さすがに最近はそんなヘマはしません。
完全に眠っているとほとんど精気が取れないので、少しだけツンツンして覚醒しない程度に起こします。
「な、何だこれ…夢?」
「そうそう、夢です、夢。あなたは今夢を見ているんです。細かいことはお気になさらず」
「何なんだアンタ、どこから入って…あれ、体が…」
うーん、思ったより覚醒が早いですね。夢うつつで微睡んでくれてるくらいが一番効率よく徴収できるんですが。
こういう時は…
「あれ、体…動か…ない…声が…」
「ご心配なさらず。すこーし元気をいただくだけですから。すぐ終わりますよ」
こういう時はすぐに『チャーム(魅了)』を使うに限ります。
大声とか出されて面倒事になると、精力とり損ねて上司に怒られてしまいます。
私が使えるチャームはまだ基本の筋弛緩と感度上昇くらいですが、まあ精気をいただくにはこれで十分でしょう。
「リラ〜ックスしてくださいね〜。ほら、こうして密着してるだけで気持ちよくなってきますよ〜」
「う、うぅ…」
「ほら、感度上昇、上昇、上昇。はい、精力が放出されてきましたね。いい感じです」
人間さんは性的快感を感じることで精気を全身から放出します。
サキュバスはそこに肌が触れているだけで精気を摂取、貯蔵ができます。
人間さんの真似事をして行為に及んでもいいのですが、それはサキュバスの趣味であって、精気の徴収とは関係がないのです。
私は最近はいつもチャームで強制的に精力を放出させます。
早く仕事を終わらせて帰りたいので。
「ではそろそろどうぞ。何も痛くないので大丈夫ですよ」
「ぐ…うあ……!」
「んっ…」
全身から精気が放出されてきました。
これを摂取して魔界に持ち帰るのが私の仕事。
なんですけど…。
「うぇ…マズ…」
不味い。やばい不味い。
いつもこうです。
腐った血液の味というか、とにかく気持ち悪い。
魔界で普段支給される精力はこんな味しないのに。
「んん…おかしいな…。気持ちよくなかったですか?もっと感度上げます?」
感度上昇。感度上昇。感度上昇。
さらに精力が放出されてくる。
徴収、徴収、徴収…。
「あぐ…も、もうやめ…やめてくれ…」
「う…オェ」
やばい、吐きそう。
彼も限界みたいですが、私の方も限界です。
「あ、ぁ…」
「はぁ、はぁ…今度こそアタリ引けると思ったのに…また怒られる…」
魔界からの要求は良質な精力を持ち帰ること。
私は徴収に出て以来、一度もまともな精力を入手したことがないのです。
サキュバスは業績に応じてランクが与えられるのですが、ダメな精気しか持ち帰れな私は未だに『ビギナー』のまま。
研修生に毛が生えた程度の立ち位置です。
今回こそ良質な精力を得るために、対象者をかなり選んだつもりだったのに…。
徴収に出た以上、得た精力を魔界に持ち帰らなければなりません。
とはいえこんなのじゃ劣化も早いだろうし、また上司に何と言われるか。
これじゃ今回もランクアップなんて絶対できないでしょう…。
「ぁ…うう…」
「ご協力ありがとうございました。チャームが解けると同時にこの時間の記憶は消えるよう認知誘導しますので、そのまま寝ちゃってください。結構吸ったので、疲れが残るかもしれませんが、支障はきたしませんので安心してくださいね」
実際には忘却というより、記憶として引き出せなくなる、最低でも夢と区別できなくなる程度の催眠を施すだけですが。
まあ夜中にサキュバスに襲われたなんて下界では誰も信じないので、本人も勝手に夢だと思ってくれるものです。
「7、6、5、4…」
催眠を施しているうちに彼は再び眠りにつきました。
血色は悪く、恐怖からか冷や汗をかいているようです。
結局人間さんもサキュバスに性欲を刺激されたところで、精気を吸われてはこうなってしまうのでしょう。
まあ、起きたらどうせ忘れてることです。
「はぁ……」
私は今回もハズレのこの精気を魔界に持ち帰って提出する仕事がまだ残っています。
絶対文句言われるし、先輩達からはまた白い目で見られるでしょう。
ただでさえクソみたいなもの食べさせらて最低な気分なのに。
憂鬱です。
私の思い描いていたサキュバスって、こんなのだったっけなあ。
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