怪異の始まり

 閑散としていた駅が、終電を迎えて少しの賑わいをおぼえる時間。

住宅街につながる駅だからだろう、降りる人がちらほらと見える。

接待を終えての帰りらしい男が、ネクタイを緩めながら帰路を急いでいた。

軽くアルコールは飲んでいるが、酔う程ではない。

明日も仕事を控えているので、足早に街頭の下を歩いて行く。

    カサ!

背後で音がした。

男は同じ駅で降りた人が、同じように帰路を急いでいるのだろうと思い、振り向きもせずに足を早めた。

    カサ カサ カサ

後ろの気配も、男に合わせるように早くなる。

男は不安を憶え、後ろを振り返った。

うす暗い街灯のに照らされ、帽子を被ったような、小さな影が見える。

 「子供?」

不安を消すように、男は声を出した。

 「どうしたんだい? こんな時間に」

日付が変わる時間に、子供が一人では危ないと思い、男は影の方へと近づいて行った。

 「家は近いのかい? おじさんが送って・・ !!」

後の言葉を男は飲み込んだ。

街灯に照らされた影は、服は着ているが、明らかに違和感がある。

半袖のシャツから伸びる腕は細くて長く、半ズボンからでる脚は、はりが無くかさかさとしていて、老人のようだ。そして、帽子と思っていたのは、変形した頭だった。

    ウヮーーーーーーー!!

男は悲鳴をあげ、走り出した。

とにかく明るい方へ、人がいる方へ走り出す。

    ヒュン!

頭の上で、風が通り過ぎた。前方に影が降り立ち、行く手を塞ぐ。

異形な者が男の腕を掴んで、醜い顔を上げた。

 「お・ うち・・  かえり  たい・・」

舌が長いのか、発音がたどたどしい。しかし聞き取れない事はない。

    ぎゃーーーーー!

男は振りほどこうと、腕を振るが、異形の者の力が強く離れない。

    メキ ミシ メキ

   ウギャーーー!!!!!

異形の者の力が強すぎて、男の骨を潰し始める。

男は痛さと恐怖から、闇雲に異形な者へと蹴りを入れた。

異形な者は腕を離し、後方にぐらつく。

男は蹴りの反動で尻餅をついたが、そのまま這うように、異形の者から距離を置いた。

 「お・ ・う ち・」

小さい身体が再び男へと近づきかけた時、札が鬼の足元に落ちてきた。鬼が札を踏んだ時、青い炎が足下から立ち上がり、異形の者を包んでいく。

 「お  う・  か   ぇり   た    ぃ・・」

異形の者は、炎に焼かれるように、足下から崩れ落ち、倒れ込んだ。

青い炎は、辺りを照らす事なく、小さな身体を燃やし続け、消えていった。

街頭に照らし出された燃えカスと、辺りを漂う異臭を、深夜の風が静か運んで行く。風はその場から立ち去る、老人の気配も同時に運んでいった。












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