時代は陰陽少女なんだから チャイルド

あずびー

少女の家系

 「お爺ちゃん、あの男の人背中に何か背負ってる」

昼の繫華街、雑踏で賑わう場所で、顎髭あごひげ口髭くちひげをたずさえた老人と幼稚園児位の女の子が手をつないでいる。

 「ははは、智夏ちかにもえるか」

 「視える?」

老人の言葉がわからず、少女は可愛らしく首を傾けた。

 「見ておれ」

老人は上着のポッケットからふだを取り出し、男の背中の物を、サラリと撫でると一瞬で消滅した。

 「すごーい!」

少女が感嘆の声を上げる。老人は少女に笑顔を見せた。

 「雑鬼ざっきを祓ったのじゃよ」

 「ざっき?」

 「そう、雑鬼じゃ」

老人は少女に、手の平の中にあるを札を見せた。札には細かい細工がほどこされていて、読めない字が書かれている。

 「呪符じゅふじゃ」

 「じゅふ?」

 「雑鬼等の邪を祓うんじゃよ。智夏にやろう」

 「いいの?」

 「儂と鬼退治するか?」

 「うん」

老人は少女に微笑みながら、呪符を少女の手のひらにのせた。

少女は呪符を握ると、雑踏の中を老人から手をほどいて走り出す。

「あの人も! あの人にも!」

少女は次々と雑鬼を祓って行く。

繁華街を駆け抜ける少女の顔は輝いていた。



 「私、魔法少女になりたいの!」

テレビの前で小学生の少女が声を上げる。

その幼い瞳は、テレビの中でステッキを操る少女を見て輝いていた。

マンションの一室、大型液晶画面に華やかな衣装をひるがえしながら、アニメの美少女が笑顔を見せている。

 「なーにを言っておる」

顎鬚と口髭をたずさえた老人が煎餅をお茶でふやかしながら口に入れた。

 「だって」

 「だってもくそまもなかろう。智夏は儂の後を継ぐんじゃろうが」

唇をとがらせた少女に、老人が目を見開いて顔を向けた。

 「なによ、その顔。私は言ってないわよ」

老人の態度に、少女、倉橋智夏くらはしちかは不服そうな声を上げた。

倉橋智夏、小学3年生。短めの癖のある髪を揺らしながら老人を見た。

 「言うておったじゃろうが」

 「昔の話でしょ」

 「そーれ、言うておったじゃないか」

老人が得意気な笑顔を見せた。

老人、倉橋靖義くらはしやすぎは、少女の頭を撫でる。智夏が可愛くて仕方がないのだろう。倉橋靖義、土御門からは遠い、傍系の陰陽師だ。

 「今は違うの! 私は陰陽師にはならないの!」

靖義の手を払い、やりくるめられたのが悔しいのか、少女が可愛らしく頬を膨らませて画面に目を移した。

 「この達も悪い者を退治するのじゃろ、陰陽師と変わらんじゃないか」

 「違うよ!」

 「何がちがうんじゃ?」

 「変身後の服とか、ステッキとかが可愛いの!」

 「お札も可愛いじゃろう」

 「どこが可愛いのよ!」

智夏はポケットから札を出す。いつも携帯しているのか、出し方もスムーズだ。

 「この読めない字のどこが可愛いのよ! 色も白地に黒い字と朱色の文字。全然可愛くない!」

少女は再びテレビに目を移した時、魔法少女の使い魔がアップで映っていた。

 「それに使い魔が可愛いのよ」

 「何が使い魔じゃ」

老人が自分の懐から札を取り出し、印を結び呪文を唱えた後にテーブルの上に投げた。

札がテーブルの上に着く手前に小鬼に変化する。

 「どうじゃ儂の式鬼も可愛いじゃろう」

床の上で小躍りしている鬼を見て、靖義は得意気な笑顔を見せた。

鬼は大画面で活躍する、可愛らしい魔法少女をバックに、踊り続けている。

智夏は小鬼を睨んで、指ではじいた後、大人びたため息をついた。





























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