学校の話題

 「昨日のプチキュ見た?」

 「見た見た」

教室で少女達が、昨日放送されたプチッとキュートという魔法少女物の話題で盛り上がっている。

 「智夏ちゃんも見た?」

クラスメートの佐倉彩音さくらあやねが、教室に入ってきた智夏に駆け寄って来た。彩音は智夏の幼馴染で親友だ。

 「うん」

 「来週まで続きが待てないよねー」

 「そうだね」

智夏は彩音に気付かれない愛想笑いで、話題を合わす。放送を見ていたが、靖義の茶々入れもあり、所々の場面を見逃していたのだ。 

 (あのくそ爺いめ・・・) 

智夏は心で悪態をつきながら、彩音との会話に笑顔で応えていた。

 「六年の子がいなくなったんだって」

背後で別のグループの少女達の話題が耳に入ってきた。クラスでは目立つグループの少女達だ。

 「これで5人目じゃない」

 「そう、ママからの門限が厳しくなっちゃたよ」

 「わたしもー」

最近起き出した事件の話だ。ここ2ヶ月の間で、学校の生徒が5人も行方不明になっていた。

 「でねー、これ見て」

噂話が耳に入らない彩音が、可愛らしいプチキュの筆箱を見せてきた。昨日の誕生日にもらったらしい。

 「可愛いね。よかったね」

 「うん」

彩音は嬉しそうに、筆箱を抱きしめた。

 「彩音も気をつけなよ」

 「何を?」

彩音はのんびりとしていて、マイペースな娘だ。今起きている行方不明事件など、気にしていないだろう。

「誘拐みたいなのが起きているから、気をつけるのよと言ってるの」

「うん、わかった」

わかっているのかいないのか、彩音は笑顔で返事をすると、自分の席へと向かった。


 「鬼が出たんだって、昨日退魔局の人がうちに来たんだよ」

翌日教室に入ると、不穏な噂が耳に飛び込んで来た。

 (退魔局、おじいちゃんの知り合いがいるところね)

智夏は目つきの鋭い男の顔を浮かべた。

退魔局、防衛相に属し、国内での怪異を、所属する退魔師、陰陽師を使い解決する局だ。

 「六花りっかのパパ、警察の偉いだもんね」

 「そう、それで話が聞こえちゃったの。でね、小さい鬼なんだって」

 「何それ? 可愛いんじゃないの」

 「私でも退治できそう」

 「キャハハハ!」

智夏は、鬼の話をしているグループを、遠目で睨んだ。

 (鬼の怖さを知らない人が何を言っているの、鬼に大きさは関係ないんだから)

彼女は靖義に連れられ、何度か鬼退治に同行している。その時の感想は、自分一人では太刀打ちできないだ。祖父がいたから、何とか呪符を使い退治できた。

 「倉橋さん! 何か私達に文句があるの!」

遠目だったが、鬼の話をしていた娘が視線を感じたのか、智夏の方にやって来た。宇藤六花うどうりっかだ。クラスでリーダー的存在で、とりまきは多いが、敵も多そうなタイプの娘だ。

 「ベ、別に何もないわ」

 「何もないなら、私を見ないでよね、気持ち悪い!」

智夏は彼女に思う所はないのだが、六花は何故か智夏を敵視しているようだ。校内でも、美少女と噂されている智夏の事が気に入らないのかもしれない。

六花は悪態をつくと、 フン! と鼻をならし、智夏に背中を向けた。

智夏は軽くため息を吐くと席に戻った。そんな智夏は、背中を向けた六花の口元が緩み、微かに頬を赤らめていた事を知る由もなかった。













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