第8話

49階の階段手前に大浴場があった。女子しかいないので、特に女湯という暖簾も見当たらない。

大浴場へのドアは開け放しで男子を完全無警戒である。それだけセキュリティーは万全だということである。

千紗季が脱衣場に入ると、そこには誰もいない。全員が入浴中であった。

着替えを他人に見られないという安心感で、リラックスしてきた千紗季。脱衣を棚の籠に入れてから、全身をバスタオルで隠して浴室のドアを開ける千紗季。まだいろいろと恥ずかしい年頃である。不思議なことだが、大学生になると、バスタオルで隠す女子はほとんどいなくなる。子供と大人の分岐点はそんなところに現れるものである。

中に入ると、湯気がもうもうとしていて様子が窺えない。しかし、食堂にいた人数がここにいるというのが直感できる。

浴室内に空調があるのから、湯気が晴れてきた。空間の真ん中に浴槽が見えた。

円形の巨大浴槽に浸かっている者はおらず、全員がシャワーで体を洗っていた。

「ずいぶん整然としてるわね。いくらシャワーしてるからと言っても、話声ひとつ聞こえないのはすごく違和感があるわ。あれ?アタシのシャワーコーナーがないわ。ま、まさか、食堂と同じルールなの!?」

『ウウウ~。』

食堂と同じようにサイレンが鳴った。

『ダダダダダ~!』

これまた食堂と同様に、全員が一斉に走り出した。シャワーから飛び出して来たのだから、バスタオルで体を隠している女子はひとりもいない。

「みんな恥ずかしくないのかしら。ソコドルもアイドルの端くれよね?」

女子たちは次々に巨大浴槽にダイブした。『ザブン、ザブン』と大きな波を立てていく。

「もしかしたら、また定員オーバーなの?」

サイレンが鳴り続け、女子たちは隙間なく湯船に浸かり、目を閉じている。蜂の巣のように、寸分の隙間もない状態である。やはり千紗季ひとりがボッチにされたようである。

「まるで修業僧だわ。気味が悪いくらい統制が取れてるわ。」

「当然だ。みんなソコドルとして訓練されているのだからな。」

「豊島区マネージャー!」

いつの間にか、真っ裸の山田が千紗季の横に立っていた。

「またその呼び方をするか!まあ今回は許そう。十分に目の保養をさせてもらったからな。」

「えっ?」

千紗季は風呂の中を見るのに必死で、バスタオルの不在通知に気づかなかった。

「きゃああ~!」

慌てて体を隠したが、山田の満足げな目は、一度読み込まれた記憶の消去を許可しないコマンド感満載だった。

「ソコドルは自己責任だ。自分のすべきことは、自分で責任をもってやるんだ。自分の責任を全うし、何かあれば自分で責任を取り、自分に自分自身で責任を持つのだ。つまり、自分の、自分で、自分に責任だ。」

やがてサイレンが止まると、浴槽から全員脱出し、お湯もなくなっていた。

「アタシのお風呂タイムが・・・。」

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