第7話

10分後、満面の笑みで、ソコドルをやることになった千紗季。

「三角関数、上二段活用、重力加速度なんて、知らなくても生きていけるわ。」

それは事実であり、日常生活には何の関係もない。しかし、この学習態度で魔法少女省を受験した向こう見ずな度胸だけは評価できるかもしれない。

地下49階の食堂に移動した千紗季。開いている入口の外側にはソコドルの仲間らしき連中がギラギラした目つきで並んでいる。口の端から涎を流している者も少なからずいる。

そこにいる異様な視線の先は、食堂に設置してある長い五列テーブルの上である。そこにはトレイに乗せられた食事が見える。スープ、パン、白く濁ったシチュー、市販のプリンが置かれている。シチューは冷めきっているのか、湯気も立っていない。ポタージュスープには具が見当たらず、パンも一見して安い素材で作られているのがわかる。要は粗食である。

列の最後尾に付けた千紗季は、眉間にシワ寄せしながら、女子たちと食事を交互に見ていた。

「こんなまずそうな夕食、誰が食べるのかしら。でもみんなそれを狙ってるようにしか見えないわ。」

突然、食堂内にサイレンが鳴った。

『ダダダダダ~!』

床が泣き喚くように軋み、猛獣のような女子たちがテーブルに襲いかかる。

サイレンがやかましく鳴り続ける中、我先にと、パイプ椅子に座るや否や、パンを手掴みで口に放り込む。千紗季は口をあんぐり開けて見ていた。どうやら食事は駆け込んだ人数に合わせていたらしく、廊下に立っているのは千紗季だけだった。

やがてサイレンが鳴り止んだ。すると、女子たちは食器をトレイ毎、食器専用棚に持って行った。女子たちは何事もなかったかのように、食堂を去って行き、もぬけの殼になった食堂には寂寥感が漂っていた。

いきなりの喧騒と静寂に、言葉を失っていた千紗季は、ようやく我に帰り、重大なことに気がついた。

「もしかしたら、アタシは夕食を食べ損ねたんじゃないの?でも食事の乗ったトレイは人数分なかった、つまりアタシの分は初めからなかったということ?」

『グーッ。』

まずそうな夕食ではあったが、食べられないと思うと、食欲からの急襲を受けるものである。

「ど、どうしよう。」

「あの豊島区マネージャーの態度からして、夕食を逃したヤツが悪いんだとか、言いそうというところかな。」

「アタシのセリフを取るんじゃないわよ!って、マネージャー、いつからいたの?」

「食事開始のサイレンからかな。見ての通り、ソコドルの夕食はサバイバルだ。毎回、ひとりだけ夕食機会を失うことになっている。まさに弱肉強食の世界だ。」

「ひどい、ひど過ぎるわ!栄養取らなきゃ、死んじゃうじゃない。」

「一食抜いたぐらいでくたばるものか。むしろダイエットには効果的なぐらいだ。それよりも夕食を逃した者にはご褒美があるぞ。」

山田は、食堂の中の炊事場に目をやった。

「ま、まさか、食器アライ、グマはかわいいよね?」

「よくわかったな。じゃあ、遠慮なく、ご褒美を受け取りな。終わったら、この階に大浴場があるから、食器洗いで汚れた体を清めてきな。アハハハ。」

「えっ・。」

千紗季はそれ以上、肺から二酸化炭素排出ができなかった。地球環境に優しい行動である。

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