第3話
もはや一階の会場には、受験生は残っていなかった。千紗季の出て行った部屋には、魔法少女姿の女性が入っていった。中では一瞬光が放たれて静かになった。
「今年の試験は不作だな。二階へ行ける上級職(キャリア)の合格はゼロ。中二階の中級職(ノンキャリア)がひとりか。そもそも試験会場は一階だけで、合否はそこで決まってるし、二階と中二階の会場は入学手続きを行うだけの部屋だし。一階は夢枕モンスターとの相性確認と対応力で、知力・学力なんかは簡単に判別できるシステムだし。」
魔法少女は眇めた目で二階への階段を上って行った。
家への道すがら、沈みゆく夕日を眺める千紗季。
「別に魔法少女省に落ちたからって、何かを失ったわけじゃないし。そう、失ったんじゃないのよね。でも求めるものとの距離は広がってしまったわ。朋樹と進学先の高校も違うし、会えなくなる日が果てしなく増えるわ。どうしよう。」
受験翌日の学校。千紗季は例によって、階段踊場でつかさと首脳会談していた。
「アタシ、魔法少女省に落ちちゃったわ。あと一歩の最終面接で、アタシが美少女過ぎたのが、試験官のプライドをズタズタにしたみたいなのよ。」
「そ、そうなんだ。不運だったね。気を落とさないで。」
「ありがとう、つかさ。進学先は別の高校にするわ。しかし、マジドルへの道は路傍の石ころみたいに、どこかに転がってないのかしら。そんなのあるわけないわよね。」
「あるよ。」
「うん、やっぱりないわよね・・・あるの!?」
千紗季はつかさの両肩に手を当てて揺さぶり、さらにはクビを締めに入った。
「く、苦しいよ!ちょっと落ち着いてよ。ゴホゴホ。」
つかさの顔はみるみるうちに紫芋に変わっていき、ようよく千紗季は手の筋肉を弛緩させた。
「早く話しなさいよ。日が暮れて、太陽が東シナ海に沈んで、海水が爆発的に増えて津波が来たらどうするのよ。」
「それは危険だね、って、そうじゃないよ。」
つかさはメガネの位置を直しながら、言葉を続けた。
「マジドルになるルートは魔法少女省入省だけじゃないよ。一気に頂点を目指すなら魔法少女省だけど、褌担ぎから入るやり方もあるよ。」
「フンドシカツギ!?それって、すごく卑猥なプレイの処理係りじゃないの?」
「卑猥なんかじゃないよ。あくまでアイドルだよ。その基礎からのし上がっていくやり方だよ。魔法少女省がエリートコースから、こちらは地道に日々努力して上がっていくやり方だよ。場所はここだから、試しに行ってみるといいよ。」
「でも、これから入学する高校生活もあるし。」
ず~んと意気消沈した千紗季。外はオレンジ色なのに、顔色が灰色になってきた。
「諦めるのはカンタンだよ。三浦くんは、ますますマジドルに傾倒して、千紗季のことなんか、眼中どころか、殿中でござる、になるけど。」
「そうだわ!殿中に入らずんば、殿方を得られずだわ。アタシ、そこに行ってみるわ!」
たしかに殿様は通常お城にいるが、殿方は巷に転がっている。千紗季は冷静な判断力を失っていた。
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