小悪魔なアイス
みららぐ
小悪魔なアイス
「ずるいよ杏ちゃん」
「ふぇ?」
真夏の、野球部活動の休憩中。
グランドの隅で応援しているあたしに、長谷川が傍にやって来るなりそう言った。
今日は、この暑いグランドで朝から1日ずっと練習をするらしい。
だから応援に来ているあたしも、さすがに暑すぎて。
「…一人でアイスはずるい」
「あ、ごめん」
なるべく部員達にバレないように、一人隠れてアイスを食べていたつもりだった。
しかし何故か、ただ一人長谷川にはバレてしまっていたらしい。
…ほんと、何でわかったんだろう。すごい謎。
あたしが軽く謝ると、長谷川はあたしの隣に座って言う。
「…俺もアイス食べたい」
「スポーツドリンクあるよ。長谷川のために買ってきた」
「ありがと。でもそれがいい」
あたしはそう言って、さっき近くのコンビニからアイスと一緒に買ってきたスポーツドリンクを差し出すけれど、長谷川の目線は完全にアイスの方にいっている。
いや、それでもスポーツドリンクは貰ってくれるらしいけど。
あたしはそんな彼に、悪戯心を踊らせて言った。
「美味しいよ、ガ○ガ◯君。あれ、長谷川くん何で食べないの?」
「…杏ちゃんてケチだよね」
「そんなことないよ。…じゃあ一口食べる?」
「食べる!」
そう言って長谷川にそのアイスを差し出すと、遠慮なくそう言ってアイスを受けとる彼。
あまりにも嬉しそうに受けとるから、あたしは何だか心配になって長谷川に言った。
「ね、全部食べるのは無しだからね」
「わかってるよ。一口だけ」
そう言って、美味しそうにアイスを一口かじる。
…一口が大きいよ。
そんな長谷川を見て思わずそう思ってしまうあたしは、本当にケチなのかもしれない。
だけどそんなことはない、と…思う。
「…満足?」
「うん、満足。ありがと」
「スポーツドリンクも飲んでよね」
「うん。後でありがたくイッキ飲みするよ」
長谷川はそう言うと、やがて休憩時間が終わったらしく、またグランドの中心へと戻っていく。
…ああ、部活が終わるまであと3時間くらい…か。
あたしはそう思うと、残り少なくなったアイスをまた口に含んだ。
ああ、何でこんなに美味しいんだろアイスって。
………
「お疲れっしたー」
そして、それから3時間後。
空が薄暗くなってきた夕方に、長い部活がようやく幕を閉じた。
長谷川は部員の友達と一言二言話をしたあと、あたしの傍にやって来て言う。
「お待たせ、杏ちゃん」
「ううん、お疲れ」
「じゃあ帰ろっか」
長谷川はそう言うと、少し疲れた様子で校門へ向かおうとする。
けど、あたしはその言葉を聞くと、すぐにそれを止めた。
「あ、待って!」
「え?」
「ちょっと寄りたい場所があるの。ついてきて!」
あたしがそう言うと、長谷川は案の定「ええ~」と嫌そうな顔をする。
早く帰ろうよ、と。
だけど、それはそうだと思う。
だって今日は今朝からずっと暑くて、そのなかで部活を一生懸命やっていたんだから。
でも、あたしはそんな長谷川の言葉も聞く耳持たずで、彼を家庭科室まで連れて行った。
「…ここに何があるの杏ちゃん」
「いいからいいから」
そう言って、あたしは冷蔵庫に近づく。
せっかく買ってきたのに、忘れちゃいけない。
あたしは冷凍庫を開けると、目的のモノを取り出して、それを長谷川に差し出した。
「…はい」
「え!何これっ」
「アイス、食べる?」
…実は、コンビニに行った時。
自分のと一緒に、長谷川の分のアイスも調達していたあたし。
まぁ本当は帰り道で一緒に食べたかったんだけど、あたしは我慢が出来なくて…一緒に食べれなくなっちゃったけど。
あたしが差し出すと、長谷川は喜んでそれを受け止って言った。
「え、いいの!?ホントに!?」
「いいよ。今日は朝から大変だったからね。お疲れってことで」
「!」
そう言って、「その代わり一口ちょうだいね」と念を押す。
だってあたしも、長谷川に一口あげたからね。ってこれ完全にケチだよな。
それでも長谷川は、あたしの言葉に喜んで頷いてくれた。
そして…
「っ、杏ちゃん!」
「?」
「ありがとう!愛してる!!」
…ちょっと大袈裟かな。
長谷川はあたしにそう言って、その瞬間ぎゅっと抱きしめてくれた。
だけど。その言葉を聞けるんなら、あたしは何度でもアイスをプレゼントしちゃおうかな…。なんてね。
(はい、杏ちゃん一口どうぞ)
(ありがとう、いただきまーす!……っ、うま!)
(一口が大きいよっ)
小悪魔なアイス みららぐ @misamisa21
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