第31話 シャーロットについて調査中
私が最初にしたのは、シャーロットの祝福を調べることだ。
聖女として列聖される可能性があるなら、家族や友人関係などに堂々と話せる祝福のはず。シャーロットにかかわる人から、祝福の話を聞いていないかを聞き出せばいい。
もちろん私は彼女にかかわって、変な噂をされてしまっているので難しい。
なので、まずはイロナや他の召使い、従僕など数人に交代でお休みを出し、そのついでにシャーロットの館の周辺で聞き込みをしてもらった。
でも三日経っても、誰も祝福については聞くことができなかったようだ。
「先様のお嬢さんに祝福があるなんて、誰も思っていないようです」
「たまに平民相手でも慈悲深くなるお嬢さんだ、ということぐらいしか、酒のついでには聞き出せなかったですね……」
成果が出なかったことに、私は落胆しかけた。
シャーロットの家の使用人が、周辺で買い物や飲みに出かけた時にでも話を漏らしていることを期待したのだけど……。
「いえ、まだよ。使用人には詳しく話していないだけかもしれないし」
今度は貴族側から攻めよう。
私はレンルード伯爵夫人やサロンの人々にお願いしてみた。
「彼女に困らされていることは聞いていたわ。どうも男女関係も広すぎることも。ディオアール様にも彼女が関係しているの?」
レンルード伯爵夫人に話すと、とても心配そうにそう言ってくれた。
「どうもそのようだと聞いて……。それで彼女が教会へ頻繁に出入りしているのを聞いて、何か祝福とかを持っていることで、司祭だったセリアンに相談して親しくなったのかしら? と思ったんです。そういった噂をお聞きになっていませんか?」
シャーロットが聖女に認定されるかも、という話はまだできない。でも彼女が大聖堂へ頻繁に出入りしているのは、イロナ達の聞き込みでも多くの人が知っていたことなので、話してもいいだろうと判断。
祝福からセリアンに相談のくだりはやや強引だけど、シャーロットがあちこちの男性と親しくしていたことも、それが眉を顰められるくらいになれなれしい感じなのは、彼女を見た事がある貴族のほとんどが知っている。セリアンに彼女が接触した理由は、そんな感じで推測してくれるはずだ。
案の定、誰にも疑問は口にされなかった。
レンルード伯爵夫人も、首をかしげつつ答えてくれる。
「祝福を持っているというお話は聞かないわねぇ。たいていは子供の頃にわかるものよね。今になって急に……ということもないわけではないでしょうけれど。少し知り合いに聞いてみましょうか?」
「ありがとうございます」
こうしてサロンの人々に探りを入れてもらった私は、その後もセリアンとは会わないまま知らせを待ち続けた。
彼は婚約が決まってから、三日に一度は花を使用人に言づけて届けさせていた。
利害の一致の結婚でも、こういうことはしておくべきだ、と彼が言って始めたことだ。
どういう基準なのか、最近は素朴な花が多い。
先日は千日紅、今日はスミレだ。
「誰かに、庭に咲いた花を摘んで持って行かせているのかしら?」
とにかく今日のスミレはいいものだ。食べられるものなので、砂糖漬けにして、後日楽しもう。
そんなセリアンの動向を調べると、郊外に出かけたりしつつも、頻繁に大聖堂へ出入りしているようだ。
もしかすると聖職へ戻るかもしれない……という噂まで聞こえてきた。
その噂を教えてくれたのは、遊びに来てくれたエリスだ。
「噂の出所は、またもあのシャーロットよ。リヴィアに愛想をつかして別れるために、もう一度聖職につくつもりだって言うの。あの人、どうしてあなたに関しての悪い噂をばらまきたがるのかしらね」
「私も理由が知りたいわ。普通に考えると、セリアンのことを好きだから、引き離したいのかしら? と思うけれど」
「好きなのに聖職者に戻るって噂を流すの?」
エリスの疑問はもっともだ。聖女の一件がなければそう思う……。
シャーロットの場合、教会に身を置いてほしいと請われているわけだし。大聖堂の中でセリアンといつでも会えるようになりたいと望んでいるんだろう。
……でもおかしいわよね。
もしシャーロットが祝福の力でセリアンの気持ちを返させたのだとしたら、聖女という立場と引き換えに、セリアンを聖職者に戻す必要はないはず。
普通なら、好きだったら結婚したいでしょうに。
「そうよね……そこがおかしいところなんだけど。まさか、私が結婚できなければそれでいいのかしら?」
だとしたら、シャーロットのしていることに納得がいくのだけど。
「あれだけ人の話をでっちあげたりするのが好きな人だもの。黙っていられなくて、誰かに何か話しているかもしれないわ。私、フィアンナと一緒に聞いてあげる」
「本当!? ありがとうエリス!」
これでシャーロットについて、別な方面からも調査ができる。
私はエリスに、何もわからなくてもお礼はすると伝え、情報の収集を改めてお願いする。エリスはお礼はなくてもいいと言うけれど、本来しなくていいことをさせるのだからと、私もゆずらなかった。
そうして新たな情報収集ルートを得た私は、同時に、自分に残された伝手を使うことにした。
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