第17話 お披露目の準備は着々と
とりあえず顔合わせは無事終了した。
婚約についてはお父様が先方と約束を取り交わす手続きなどをするので、私は特にすることはない。
そして婚約披露のパーティーを開くことになった。
パーティーに関しては通常「してもしなくてもいい」ものだけど、名家となるとお客様を招いて盛大に行う必要があるみたい。
「なまじ家が長く続くと、こうしないと後でなにかとうるさい方もおおいものですから」
「セリアンの婚約に、口をはさみそうな人間もいるらしいんですよね。それに釣り書きを送り付けてくる家も多いから、断り続けるよりも、沢山の方に招待状を送る方が楽なので」
ディオアール侯爵夫妻は、そんな風に語っていた。
……口をはさみそうな人間の中には、マルグレット伯爵だけではなく、シャーロットも入っているんでしょう。
ドレスについては、婚約者としてプレゼントしたいと言われているので、セリアンに任せることになった。
パーティーの会場も準備も、ディオアール家でしてくれる……というか、弱小子爵家のうちにできるのは、そのお手伝いがせいぜいだ。
侯爵夫妻にもセリアンにも、任せてほしいと言われたので、申し訳ないながら全面的にお頼みすることになってしまった。
お父様はそちらの手伝いをするとして、私がするべき仕事は、うちにかかわる貴族のお友達など、パーティーに呼びたい人に招待状を出すことだ。
パーティーを行う広間と庭を見せてもらい、人数も打ち合わせたので、私は翌日から招待状を書き続けた。
三日後には一斉にあちらこちらへ届けさせ、王都内の館に滞在する方々からは、翌日に返事が来た。
「ほとんどが出席だわ。ノーリスの大伯父様も、珍しい……うちの数少ないパーティーも、一度だって出席したことがないのに」
沢山の返信を運んできた上で、開封の手伝いをしてもらった召使いのイロナに、私はなにげなく話す。
「沢山の方に来ていただけるようで、ようございましたお嬢様。それに涙に暮れての婚約式になるかもと思っておりましたから、楽しそうにしていらっしゃって、わたしもほっとしております」
「イロナにも迷惑をかけてしまって申し訳なかったわ」
問答無用で身につけさせられた指輪は、私が何も言わなくても、セリアンの婚約を受けたという証拠になってくれた。サイズがきちんと合っていたおかげだ。
それを支援してくれたのはイロナだ。
「わたしはたいしたことはしておりませんよ。ただ、このままだとリヴィアお嬢様が家出をなさって、人さらいにあってしまうかもしれないと、心配はいたしましたが。……あと、二番目のお嬢様はリヴィアお嬢様や一番目のお嬢様と違って、領地の運営には明るくないと聞きました。二番目のお嬢様が領地を継ぐことになったら、領地にいる私の娘の暮らしが心配になると思いまして」
私はぐうの音も出ない。
女一人で家を出奔したところで、すぐさま人さらいに誘拐されてしまいかねない。国は治安に力を入れるようにしているみたいだけど、王都の中だけならまだしも、街道上でも郊外は難しい。
それに二番目のお姉様が逃げたのは、領地運営の勉強を嫌がってのことでもあった。夫になった人も、他の貴族と渡り合っていくことも必要なのに、いい人すぎて……不安だ。
ただでさえうちの領地は裕福とまでは言えないのに、うっかりと貴族間の交流で失敗したら、領地の産物を売り買いする時にも、ひどい目にあうだろう。イロナはそういう心配をしたのだろう。
私ももろもろを考えた上で、逃げそこなった以上は継ぐしかないと諦めたぐらいだもの。
「あの方でしたら、間違いなくこちらの家を継ぐにしろ、継がないにしろ、力になってくださると思いまして」
イロナがにっこりと笑う。
「イロナの慧眼に助けられたわ……」
しみじみとつぶやきつつ、私は出席者の一覧を作っていく。
一覧が出来上がったら、今度は席順を考えなければならない。基本的には、セリアンの家で呼ぶ方々を前側に……という配置になるだろうけれど。序列的に、高位の方が多いものね。
なんて考えていたら、騒がしい足音とともに扉が叩かれた。
妙に焦ったノックの仕方に、イロナもいぶかしみながら訪問者を確認する。
「お嬢様、家令のゲイルがお手紙を持ってまいりました」
「何か問題のある手紙なの?」
手紙を届けるだけで、うちの家令がバタバタと足音を立てて走ることはないのに。
とにかく家令を部屋に入れると、家令のゲイルは困惑気味の表情で、美しい藤色に染められた封筒を差し出した。
「お、お嬢様、王家からのお手紙でございます」
「はい!?」
さすがの私も驚いた。
「王家からの手紙!? 王家にはそれほど親しい方もいないから、招待状なんて出していないし……ってそうよ。セリアンの家に届くものが、間違ってうちに届けられたのではないの?」
誤配達なら納得できる。そう言ったのだけど、ゲイルは首を横に振った。
「間違いなくお嬢様のお名前で届いております。送り主はアレクシア王女殿下です」
「え……」
王女殿下が私に? お茶会の招待状でもないのに。
疑問には思うけれど、とにかく中身を見なくては話が始まらない。金の封蝋に、間違いなく王家の印が入っていることを確認し、びくびくしながら開いた。
中に入っていた淡いバラ色の便せんに書かれた、流麗な文字を目で追って……私は、口をぽかーんと開けてしまった。
「お嬢様、何かご叱責のお手紙でしょうか?」
ずっと黙り込んでしまった私を心配して、イロナがそう尋ねてくれる。
私は首をゆるゆると横に振った。
「ご叱責などではないけれど。その。王子殿下が婚約披露パーティーに出席しようとしていて……。それで、万が一の場合にそなえたいから、申し訳ないけれど王女殿下を私の招待客ということで、パーティーに招いてほしいって……」
イロナもゲイルも、目を丸くしたまま二の句が継げなくなっている。
手紙の内容を要約した私も、まだ衝撃から立ち直れていない。
王女殿下を、私の招待客にするの!?
というか、パーティーに王子殿下が出席しようとしてるって、どうして?
「と……とりあえず、セリアンにお手紙を……」
私はセリアンに、一体どういうことなのか把握している? という問い合わせの手紙を書くことにしたのだった。
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