第18話 説明を聞くことになりましたが
手紙を受け取ったセリアンは、すぐに私のところにやって来た。
「ちょうど良かったリヴィア。サロンへ行こうか」
「サロン?」
あの手紙を送ったら、なぜサロンなのか。
よくわからないけれど、馬車の中で内密の話がしたいのかと考えて、私は出かけることにした。
「お嬢様、こちらをどうぞ」
こころえたイロナが、サロンへ出かける時に持って行く品一式をまとめて、鞄に入れて渡してくれた。
中には汚れてもいい靴、エプロンや、畑仕事用の汚してもいい服とか手袋が入っている。
「ありがとう」
礼を言って荷物を馬車に積み、私はセリアンと一緒に出発した。
二人になって早々に、セリアンが話し始める。
「手紙で知らせてくれてありがとう、リヴィア。こちらもそのことで、君に話したいと思っていたんだ」
「ということは、テオドール王子殿下がパーティーに出席したいと言っているのは、本当なの?」
セリアンはうなずく。
「テオドール王子殿下から招待してほしい……というか、「どうして招待してくれないのか、友達じゃないのか」と、兄がやんわり責められたみたいでね」
「殿下はセリアンのお兄様と、そんなにも親しいの?」
「小さい頃から、話し相手に王宮へ上がっていたからね。それでも、友人の弟の婚約パーティーごときに、王族が参加したがるというのもおかしいから、僕も探りを入れていたんだけど……」
溜息をついて、続ける。
「今日、レンルード伯爵夫人の館に詳細を知っている人が来るんだ。君も直接話を聞いた方がいいだろうから、一緒に行こうと思っていて」
「詳細を知っている人?」
首をかしげる私に、セリアンが苦笑いする。
「そう。会えばわかるよ。僕も詳細まではまだ聞いていないから、それ以上は詳しくわからないんだ」
セリアンの言葉に納得し、私は馬車に揺られてレンルード伯爵夫人の館に入った。
館には、決まった曜日にサロンが開かれている……ことになっている。
そのほかにも、作物や花樹が心配な人達が訪問するので、庭には毎日サロンの参加者が誰かしらはいる状態だ。
伯爵夫人が不在の時は、家令が対応している。私も何度か、直接庭に訪問させてもらって、畑の様子をみたものだった。
今日は私達が到着すると、エントランスの前でレンルード伯爵夫人が待ち構えていた。
いつもは果樹の世話をするため、腕カバーや手袋にエプロン姿の夫人は、今日はドレスを着ていた。
50代という夫人の年齢に合った落ち着いた藍色のドレスは、銀糸で複雑な模様を織り出した高級品。
私はそんなドレスが必要な相手が、伯爵夫人の館にいるのだと察した。
でも誰が?
知っているセリアンは夫人に簡単に挨拶し、問題の人物がいる場所まで案内してもらう。私は大人しくついて行き……館の奥まった場所にある応接室に足を踏み入れて、息をのむ。
「お久しぶりね、リヴィア嬢」
ソファに座っていたのは、ブルネットの髪に金の髪飾りをつけた妖艶な女性……アレクシア王女だ。
「え……」
どうしてここに王女殿下が?
ぼうぜんとしかけたけれど、長年をかけて染みつかせた礼儀作法が、無意識のままその場に膝をつかせた。
「お、王女殿下、お久しぶりでございます」
「ああ、そんなにかしこまらないで」
アレクシア王女は笑顔で私に立つよう促した。
「あなたの婚約者も、膝まではついていないわよ? あなたが侯爵家の一員になるのなら、もっと堂々としていていいのよ?」
たしかにセリアンは膝をついていない。胸に手をあてて簡単に一礼しただけだ。けれど同じ対応をするわけにもいかない。
「まだ私は、子爵家の者でございますので」
「謙虚ねリヴィア嬢は。高位の家に嫁ぐことになった令嬢は、たいていが婚約した時から振る舞いが変わってしまうものだけど。……良い人を選んだわね、セリアン」
「お褒めにあずかり光栄です。本当に良い人と出会えたと思っております」
セリアンはさらりと礼を言う。
私はうつむいてしまう。
そんな風にほめられるようなことではないのに、面はゆくてたまらない。
一方で、私は内心で困惑していた。
アレクシア王女の手紙を見てセリアンに連絡したら、セリアンと一緒に王女に会うことになってしまったわけだ。
けどセリアンの方はそもそも、テオドール王子のパーティー出席の打診について詳細を知っている人がいると、私に言っていたのだ。
アレクシア王女は間違いなく詳細を知っているだろうけれど、普通、本人が私なんかに会いに来るものだろうか。というか、王女が私に招待してくれというのもかなりおかしな話のわけで。
兄妹そろって、セリアンの家から招待してもらえばいいのではないかしら? なぜ王女は私から招待されることを望んだのか……。
それもこれから説明してくれるのだろうけれど、直接話す必要があるとなれば、内密にしなければならないような、やっかいな話になりそうな気がする。
アレクシア王女は、私やセリアンに、向かいの席につくように促した。三人だけで話したいとあらかじめ伝えていたんでしょう。
レンルード伯爵夫人は着席せず、部屋から出て行ってしまう。
するとすぐに、アレクシア王女が話し始めた。
「とても困惑しているみたいね、リヴィア嬢。無理もないわ、手紙を送ったあげくにこんな風に会うことになるとは思わなかったでしょうし。でも、わざわざ内密に会う機会を作ったのは、詳細を聞きたいと言うあなたの婚約者の要望があってなのよ」
アレクシア王女は微笑んでセリアンに視線を向けた。
「兄のテオドールの件について、一体何が原因でパーティーに出席したがったのか説明してくれってね。私としても、ちょっと妙なことになっているし、リヴィア嬢から招待してもらう必要がありそうだしで、婚約者のセリアンには説明しておくべきと判断して、レンルード伯爵夫人に席を設けていただいたの。あなたにも話しておくべきだろうと思ったから、一緒に連れてきてくれてちょうど良かったわ」
セリアンからアレクシア王女に説明を求めたのね。
会うことになった理由はわかったけれど、王女にそんな要求をするなんて、さすが縁続きの名家出身の人は違う。
「それで、テオドール殿下とアレクシア殿下が急にパーティーに出席することにした理由を、私達に教えていただけますか?」
セリアンに言われて、アレクシア王女は説明に入った。
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