第44話 クリスマスパーティーへのご招待
「本当にいいの?」
「はい、大丈夫です。」
「後悔しない?」
「相手が渉君ですから。」
渉はしっかり清華の手を握り、清華も渉の手を握りしめる。お互いに目を見つめ…。
渉は校長室のドアを叩いた。
「どうぞ。」
「失礼します。」
ドアを開けると、正面に仏頂面の老人が座っていた。校長先生は口うるさくて有名だった。
「西園寺の嬢ちゃん、どうしたんだ?」
いきなり校長が笑顔で立ち上がり、清華の方へ歩いてくる。
「林田のおじい様、お時間よろしいですか?」
「ああ、いい、いい。どうしたんだ?饅頭食べるかい?煎餅もあるよ。」
「あの、サーヤ?」
渉は戸惑いながら清華の袖を引く。
「校長先生は、おじい様の幼なじみなんです。」
緊張していた渉は、いっきに脱力する。
「早く言ってよ。」
渉達は、学校に婚約のことを伝えにきたのだ。
本格的に付き合うことにした今、渉は隠したくなかったのだ。たとえ処分があるとしても。なので、かなり緊張して校長室に入ったのである。
「君は生徒会長の東條君だね。いやあ、婚約おめでとう。」
「えっ、あっ、ありがとうございます?」
婚約を報告にきたつもりが、先に言われてしまった。
「あの、婚約のことは?」
「だいぶ前に、源造が自慢気に言ってきたよ。まあ、高校のうちは婚約のことはふせておきたいと言っていたがな。その前に、トヨさんが東條君のこと聞きにきたしね。成績とか、家族のこととか。」
個人情報の漏洩じゃなかろうか?
まあ、いいけど…。
「ばあやが?」
「ああ、成績優秀、品行方正、父親の職業もしっかりしていることを伝えといたよ。君の婚約成立には、私も一役かっているということを忘れんでくれよ。」
暗に、しっかりしろと言っているんだろう。
「あの、僕が西園寺家に住んでいるということは?」
「知っとるよ。せめて、子供は卒業してからつくってくれよ。」
校長って、こんなに砕けた人間だったんだな。
「いやですわ、林田のおじい様ってば。結婚はまだ先ですのよ。子供なんて、そのまた先ですわ。」
にこやかに笑う清華を見て、何か感じるところがあったのか、渉に不憫そうな視線を向ける。
「まあ、若いうちは色々修行だよ。うん。」
校長先生は、饅頭を渉に握らせながら肩を叩いた。
「あの、何か処分みたいなことは?」
「処分?この町に、西園寺家のやることに文句を言う奴はおらんよ。しかも、西園寺家の婚姻となれば、めでたい以外のなにものでもないだろう。」
「じゃあ…?」
「処分なんかないよ。」
「良かったですわ!林田のおじい様、これどうぞ。もしお時間がありましたら、いらしてください。クリスマスパーティーを行いますから。」
清華は招待状を一通取り出し、校長に手渡した。
「今週末?お邪魔するとしよう。源造にそう伝えてくれ。」
二人は改めてお辞儀をすると、校長室を出た。
校長室のドアを閉めた渉は、清華の手を握った。いわゆる恋人つなぎだ。
「さてと、みんなに招待状を配りに行こうか?」
「はい!」
二人はそのまま校舎を歩き、三年、二年、一年の教室を回る。
三年は司に、二年は生徒会役員達に、一年は清華のクラスの生徒全員と裕美にも配った。
裕美のクラスに行った際、裕美は何度も二人の顔とつながれた手を交互に見た。
「あなた達?!」
「付き合うことになりましたの。裕美さんには、きちんとお伝えした方がいいかと思いまして。」
裕美は、鼻をヒクヒクさせて、腕を組み、斜め上を見上げる。
「まあ、お似合いですわよ!こんな平凡な男、西園寺清華の彼氏でちょうどいいんじゃなくて!」
「あのな…。」
一言言ってやろうとした渉を、清華はさりげなく制する。
「ありがとうございます。あの、これ、クリスマスパーティーをやりますの。ぜひ、いらしていただけますか?」
裕美は、チラッと招待状を見ると、フンと鼻を鳴らす。
「私は暇じゃないの!でも行ってあげてもよくってよ。まあ、時間に都合がつけばね。」
招待状を受けとると、ポイと机に放る。
実は、クリスマスパーティーで、正式に二人の婚約を発表することにしたのだ。
源造達は、高校を卒業してからのほうがいいのでは?と、最初は反対したが、どうせ付き合っているのをばらすなら、結婚も視野に入れたきちんとした交際であることを示したいという渉の気持ちをくんでOKしてくれた。
「これで配り終わったかな?」
「そうですわね。」
「それにしても、随分大がかりなクリスマスパーティーになっちゃったけど、大丈夫?料理とか。」
この人数の食事を清華一人では作りきれないだろうし、第一そんな費用もないだろう。
「今回はスポンサーがつきましたから、問題ありませんわ。料理もほとんどそちらが用意してくださるそうです。私は、渉君のお母様の鶏の丸焼きと、ケーキを作るだけですから。」
「スポンサー?」
「はい。上條グループです。」
「上條って、サーヤに求婚した?」
「あの方ではなく、そのお兄様です。」
西園寺家の人脈を上條グループにつなげることを約束し、上條グループからの支援を取り付けたのだった。驚いたことに、これらのことを取り付けたのは彩華であり、婚姻によらない上條グループと西園寺家の関係を提案した。
それは、彩華の就職であった。今まで働いたこともなく、それこそ深窓の令嬢である彩華が、上條グループの重役の座に就任したのだ。わざわざ彩華のために支社を作り、月に一回本社に出社するために、東京に家まで用意してくれたらしい。
「彩華さん、働けるの?」
「何か、毎日楽しそうにしてますわ。」
「そりゃ良かった。」
西園寺家にもまとまった収入(かなりな額)が入るようになり、黒沢達にも給料が発生するようになった。
これにより、東條家が西園寺家に間借りする理由はなくなったのだが…。
「それにしても、まさか葵さんが女性だったなんて…。」
清華は、クスクス笑う。
「あら、男性だとは申し上げてなかったはずですわ。」
「そりゃ、そうだけどさ…。バリバリイケメンにしか見えなかったし。」
「予定日はいつでしたっけ?」
「九月中頃かな。」
「お兄様ですわね。」
「まさかなあ、この年で兄弟ができるとは思わなかったよ。」
「私も、まさか葵をお義母様と呼ぶことになるとは思いませんでしたわ。」
二人とも、昨日のことを思い出して笑った。
本当、思いもよらなかったよ。
まさか葵先生が女性だったなんて。
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