第43話 お嬢様、告白する
「渉君、ちょっとよろしいんですか?」
清華が渉の部屋をノックした。
「はい?どうぞ。」
夕飯も食べ終わり、お風呂にも入り後は寝るだけだった。ジャージ姿で布団に転がっていた渉は、起き上がってドアを開けた。
時間が時間だけあって、寝間着姿の訪問を期待したが、清華はきちんとワンピースを着ていた。
というか、いつもの部屋着でもなくなぜか外出着だった。
「どうしたの?」
部屋に入れると、清華は渉の前にきちんと正座をした。
渉もつられて正座する。
「渉君。」
「はい。」
背筋をピンッと伸ばして座る清華の表情が固い。
渉の中には、悪い予感しかなかった。
自分の気持ちに、もしかして気づかれたのか?
僕なんかがサーヤを好きだって、身分違いにも程があるって怒ってるとか?
もしや、僕の妄想が駄々漏れだとか?いや、そんな超能力みたいな話しはないよな。
渉は、清華の顔色を伺いながら、清華の次の一言を待った。
「渉君、私と渉君の関係を教えていただけますか?」
うわっ!やっぱりばれてる系か?!
「関係って、…友達…とか?」
清華はため息をつく。
やはり、葵達の話しは本当でしたのね。
清華の眉がぐぐっと寄る。
渉は、そんな清華を見て、自分が清華を好きなことがばれていて、不愉快に思ったから険しい顔になったんだと思い込んだ。
「そりゃ身分的にも友達だって不相応なのに、僕の気持ちはサーヤには不快なものかもしれないけど、そんな嫌そうな顔しなくても…。別に気持ちを押し付けようとか、そんなのは全然なくて、友達で十分だと思ってるし、高望みなんかしないから、心配しなくていいよ。」
渉は、下を向いて早口で言った。
「渉君の気持ちとは?」
「そりゃ…あれだよ。」
渉がゴニョゴニョ言うと、いきなり渉の顔を清華の両手がつかんだ。
「はっきりと!」
「僕がサーヤを好きな気持ちだよ!」
渉は、やけになって叫ぶ。
清華の目から、涙が一筋流れた。
ヒーッ!
泣くほど嫌って…、かなり凹む…んで…す…け…ど…?
よく見ると、泣き笑いのような、涙を流しつつ、微笑んでいるような?
「私も、渉君が好きです。」
「はい?」
渉の頬を挟んでいた手がパタリと落ちて、渉の手の上にのる。
「渉君が好きです。」
「友達として?」
「渉君は、私と恋人としてのお付き合いと、友達としてのお付き合い、どちらをお求めになられますか?」
少し拗ねたような清華の様子に、渉の背筋がゾクゾクッとする。
堪えられないくらい可愛い!
「いや、そりゃ恋人だけど、それは無理だし…。」
「なぜ?」
「なぜって、えっ!?なんでだろう?」
渉は完璧にパニクっていた。
自分の気持ちは清華には負担になるだろうと、勝手に思い込んでいた。清華が、渉に友達を求めているんだと思っていたから。
「私は、渉君のことを異性としてお慕い申し上げております。ずっと前からです。私は、渉君もそうだと思い込んでおりました。」
「ええっ?!」
じゃあ、サーヤが妙にくっついてきたのも、僕の前で目をつぶったのも!!
渉は清華の肩をつかんだ。
「あの、それは、つまり…。」
清華はそっと目をつぶった。
これは、この流れは!
渉の手に力が入る。
清華の唇に、プルンとして艶やかな唇に引き寄せられる。
軽く触れるだけのキス。
お互いにファーストキスだった。
何秒、唇を合わせていただろう?
渉の手が清華の背中に回り、清華の手が自然と渉の腰に回る。
渉は唇を離すと、ギュッと清華を抱き締めた。
「大好きです。付き合って下さい。」
「もちろんです。」
清華も渉を抱き締め返す。
渉は、今までの分を取り返すように、何度も何度も清華と唇を重ねる。
が、恋愛初心者の渉には、唇を押し付ける以上のキスを知りようもなく、それ以上の発展はないまま、それでもお互いに満足していた。
「渉君にお知らせしないといけないことがあるんです。」
チュッチュッとキスしながら、清華は渉の洋服を引っ張る。
「まだあるの?」
会話終わりにチュッとする。
「実は、今日お付き合いが開始いたしましたが、渉君達がこの家に来た時から、婚約しているんですの。」
「誰が?」
「私と渉君です。」
「婚約ってのは、結婚するってこと?」
「お嫌ですか?」
渉は、少し長めに唇を合わせる。
「付き合うってことは、その先には結婚だってあるんだから、まあいいんじゃない?サーヤが嫌じゃなければ。」
それにしても、そりゃそうだよな。普通に考えて、大事なお嬢様の隣りの部屋を、同年代の異性に貸すなんてあり得ない話しだ。
でも逆に考えて、婚約者を隣りの部屋にするってことは、その、家族公認ってことで、つまりは…。
渉の喉が鳴る。
渉の視線が、清華の唇から首筋、胸元へと注がれる。
いやいやいや…。
調子にのったらダメだ。
「私は、嫌じゃありません。」
「いいの!?」
渉は食い気味に清華に詰め寄る。
「私は、以前から婚約の話しは知っておりましたし、婚約してると思っておりましたから。今さらと言いますか…。」
「婚約…の話しね。」
渉は、いきなり勢いがそがれる。
そりゃそうだ。
西園寺家の心得を読んで硬直していたサーヤが、いきなりHをOKするわけがない。
「あのさ、結婚って、高校卒業したらとかなのかな?」
清華は首を傾げる。
「お母様は、渉君が大学卒業したら…みたいなことを言っていましたかしら?」
大学卒業?
ってことは五年後!
五年も据え膳状態なわけ?
「五年も待てない!」
清華は、そんなに早く自分と結婚したいのか、そんなに好かれているのかと、感激して渉に飛び付く。
「渉君は、そんなに早く私との結婚を望んでくれますのね?」
清華に押し倒されるような形となり、渉の上に乗った清華は自分からチュッとしてくる。
天国で地獄だ!
寝転がった状態で清華を抱き締めながら、渉は幸せを噛み締めていた。
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