第42話 お嬢様、勘違いに気づく

 渉達のリビングに、健と葵が並んで座り、正面に清華が座ってお茶を飲んでいた。みな、ラフな普段着に着替えている。

 一見、和やかな雰囲気だが、葵は視線が泳いで挙動不審だし、健はひたすらお茶を飲んでいた。


「それで、お話しとは?」

「お嬢様、気を確かにお持ち下さいね?」

「いやあね、葵は大袈裟だわ。そんなに凄いお話しなの?」


 私が思い込みをしている…って話しですわよね?

 渉君の思い違いも大概ですけど。

 渉君の思い違い?

 まさか……。


 清華の顔色がサッと変わる。

「もしかして…。渉君実は…。」

 健と葵がゴクリと唾を飲む。

 清華は真剣な表情で前のめりになる。

「女性なのですか?」

 健達は思わず笑ってしまった。

「いえ、生まれた時から正真正銘男です。オムツを替えた僕が言うのだから、間違いないですよ。」

 清華は、ホッとしたように微笑んだ。

「なら、何ですの?はっきりおっしゃって下さいな。」

「まず、渉は清華さんとの婚約の話しを知りません。」

 健は、軽いジャブから入った。

「そうなんですの?」

「はい、僕と清華さんのお母様とは話しましたが、渉とはその話しはしていないんです。僕も、てっきり二人で話しているもんだと思っていたので。ちなみに、渉と婚約の話しは?」

 清華は少し考えてから、首を横に振った。

「では、私の思い込みとは、婚約のことなんでしょうか?」

 健は申し訳なさそうに首を横に振る。

「それだけではなさそう…なんですよ。」

「ここからは私が。」

 葵が健の腕に手を置く。

「清華様、清華様と渉様は正式にお付き合いしてないと思われます。」

 葵はいきなり本題を切り出した。

「は…い?」

 清華がキョトンとして葵を見る。

 葵の言葉はわかったが、意味が理解できなかった。

 葵の表情は冗談を言っているようには見えなかったし、健ももちろん真剣な表情をしている。

「お付き合いして欲しいと、言われましたか?」

「いえ、でも…。私の笑顔が好きだと。」

「私も、お嬢様の笑顔は好きですよ。いつも笑っていていただきたいと思っておりますよ。」

「えっと…?」

「確認ですが、お嬢様は渉様のことをどう思われていますか?」

 清華はポッと顔を赤らめる。

「それはもちろん、お慕いしております。」

「渉様は、残念ながら清華様のそのお気持ちに気づいていらっしゃいません。」

 葵はため息をつき、清華の表情が曇る。

「私の…片想いということでしょうか?」


こんな可憐な少女に想われて、我が息子ながら幸せ者だな。


ここに渉がいたら、ひやかしながら小突き回してるだろうなと思いながら、同時にあまりに鈍感な渉の尻をひっぱたきたい気持ちにもなる。

「そうではないようだよ。」

「これは私達の憶測ですが、渉様は清華様に愛情を持ってらっしゃるようです。でも、それを清華様にぶつけようとはなさらない。身分違いを悩んでいらっしゃるのか?」

「ただのヘタレかもしれないね。我が息子ながら。フラレるのが怖いだけかもよ。」


 さすが父親、一番渉をわかっていた。


「もしそうなら、お嬢様から好きだと言えば問題解決です。大旦那様にばれる前に、告白してしまいなさい。」

「大旦那様…、清華さんのおじいさんだよね?ばれたらまずいの?」

「まずいですね。健さん達がこちらにお住まいになられたのは、婚約者家族だからと聞いておりますから。もし、婚約が無効だとばれたら…。」

 葵と健がああでもないと話し合っている間、清華は放心していた。


 渉君とお付き合いしていないなんて…。

 では、私がくっついていたり 、目を閉じていたのは…、とてもはしたない行為だったのでは?!

 恥ずかしい!!


「わかりました。」

 清華は、ギュッとスカートを握りしめた。どうやら心を決めたようだ。

「お嬢様?」

「今日、渉君と話してみます。私の気持ちを伝えて、渉君の気持ちも聞きたいと思います。」

 一度思いきると、男らしいお嬢様だ。

 きっぱりと言った。

「葵達は出かけるのでしょう?時間を取らせて申し訳なかったわ。さあ、デートに出かけて。私もおじい様達のお夕飯を作らなければ。」

 清華は、葵達を部屋から追い出すと、台所へ向かった。


 美味しいお夕飯を作りましょう。

 おなかがいっぱいなら、幸せな気持ちになりますものね。

 前向きな気持ちになりますものね。


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