第41話 クリスマスダンスパーティー2
「きゅ…休憩しない?」
「疲れておりませんが?」
清華はもっとくっついていたかったし、渉は精神力の限界を迎えていた。
「喉が渇いたかなって。」
「わかりました。」
清華は、残念そうに渉から離れると、渉の腕に手を添えてホールから出た。
さっき、清華が麦茶を販売していた時は、廊下まで列ができていたのに、今はパラパラと人がいるだけだ。
「お帰り。さっき、お前の親父さんがきたよ。」
遠藤からジュースのチケットを買ったときに、遠藤が言った。
「親父?何で?」
「葵先生と一緒だったよ。」
「葵先生と?」
そういや、この間一緒に映画見に行ってたし、その後一緒に飲み行ってスーパー銭湯まで行ったようだし、仲良くなったのかな?
「探してみましょう。」
「じゃあ、ジュース飲んだら。」
ジュースを取りに行き、ジュースを飲んでからホールに戻った。
チークタイムは終わっており、さっきよりも生徒が増えていた。
探せるかな?と思いきや、一発で見つかった。
葵は、ミズコンの時のアオザイを着ており、健はスーツ姿だった。
「お父様、凄くかっこいいですね。素敵ですわ。」
二人で踊っている姿は妙に決まっていて、健があんなに踊れるとは、渉も知らなかった。
二人とも楽しそうで、とても一回り以上年が離れているようには見えない。仲の良い友達のように見えた。
葵が渉達に気がついたのか、健の腰に手を当て、耳元で何か話している。
あれ?
渉は目をこする。
葵があのアオザイを着ているからか、一瞬女性のように見えたのだ。
「いかがなさいました?」
「なんでもない。暗いからかな、ちょっと目が慣れなくて。」
健達が渉の方に手を振ってやってきた。
「親父、何紛れ込んでるんだよ。」
「私が招待いたしました。昔、ディスコに通ったことがあると聞いたので。」
「まじで?」
健は照れくさそうに頭をかく。
「まあ、付き合いでね。僕の友達が神楽坂の下にあったディスコにはまっててね。大学で東京にいた時にね。」
「お父様、東京の大学だったんですか?」
「まあ、都会に一度は出てみたかったからね。」
渉は信じられない思いで健を見た。
真面目で、研究一筋で、インドア派だと思っていた父親が、まさかのディスコ通いをしていたとは。
「葵先生のお連れの方、東條君のお父上だったんですね。」
司が女の子達を引き連れてやってきた。
「司先輩、生徒会の先輩だよ。」
「いつも司がお世話になってます。渉の父親の東條健です。」
「いやあ、お父上、ダンスお上手ですね。葵先生と二人、目立ってましたよ。」
「お父様、ディスコ通いなさっていたんですって。」
「ディスコ!いやあ、昔のディスコって、ナンパとか凄かったんですよね?パンチラし放題って本当ですか?」
何情報ですか?
女の子達はドン引きだし、葵も何やら眉を寄せている。
「いや、それはもっと昔じゃないかな?ジュリアナ東京とか。まあ、お立ち台とかはあったけどね。」
「お立ち台!それいいですね。」
司はいきなり走っていったかと思うと、お手伝い係を引き連れ、何やら体育館の倉庫から台を運んでこさせ、一列に並べはじめた。
簡易お立ち台が完成すると、司自ら乗り、ミニスカートの女の子達を選んでは台の上に引っ張りあげた。真ん中には、衣装チェンジした裕美がいた。
「また、行動が早い子だな。」
「健さん、ナンパしてたんですか?」
葵はまだナンパにこだわっていたのか、健のスーツの裾を引っ張って言った。
「いや、あまりそういうことは…。それにほら、昔の話しだしね。」
健は言い訳し、葵は何故か怒っているようにそっぽをむいている。
その様子を見て、何か違和感のようなものを感じる。
いや、まさかね…。
渉は、自分の頭の中に浮かんだ考えを否定した。
カップルみたいですわ。
同じことを、清華も感じていた。清華は渉と違って、すんなり受け入れる。
清華も初めて見る、葵の女の態度や表情だったから、すぐにピンッときたのだ。
「渉、今日はその、この後葵さんと飲みに行こうかって話してたんだが、いいかな?」
「別にいいよ。どうせ、片付けで遅くなるから。」
「清華さんも、そういうわけで私達の夕飯はいりません。すみません、突然で。」
「大丈夫ですわ。」
「お嬢様、私達は一度着替えに戻りますので、一緒に帰宅いたしましょう。」
「でも…。」
あと一時間ほどクリスマスダンスパーティーは続くし、できれば渉と一緒にいたかった。
「その方がいいよ。片付けは男子だけだし、一人じゃ帰せないから。」
「わかりました…。では、お先に失礼いたします。」
清華は後ろ髪を引かれつつ、葵達とホールを出た。
お手伝い係の荷物置き場に預けていた荷物を受けとると、清華は葵達の後ろを歩いた。
普通のカップルのように手をつないだり、ベタベタしているわけではないが、妙にしっくりくるというか、お互いを見る視線が穏やかで、男女のカップルにしか見えない。
いつもの表情を消した執事の葵ではなく、健の前では昔の葵のように笑ったり怒ったりすねたりと、素の葵を出しているようだった。
「お二人は…手をつながないんですの?」
「はい?」
健がびっくりして振り返る。
「清華様、何を?」
「あらだって、付き合ってるんでしょう?」
「わかりますか?」
葵は、回りにバレバレなのか?ということがショックで、つい白状してしまった。
「そりゃ、葵を見ていればわかります。」
「別に隠すつもりはないんだけどね、少しデリケートな問題だからさ。」
健が頭をかきながら慎重に言う。
「デリケート?渉君のことですか?」
「まあ、父親に彼女ができたってのもそうだけど、あいつ…葵さんのこと男性だと信じてるから。」
「そういえばそうでしたわね。まだ誤解は解けてないんですか?」
葵はムッツリしてうなずく。
「たぶん、私がスカートをはいたとしても、女装趣味があるのか…くらいにしか思わないでしょうよ。思い込みというのは、本当にやっかいです。お嬢様もですが。」
「葵さん!」
健が葵の腕を引っ張る。
「私が、思い込み?」
「あ…、いえ、その…。」
「私が何を思い込んでいるのですか?」
葵は、ついポロッと出てしまった言葉に、なんて言い繕おうかシドロモドロになり…ついに諦めた。
「それは、着替えたらお話しいたしましょう。」
ちょうど屋敷についたのもあり、葵は門を開けて清華を中に入れつつ、何て話そうかと考えていた。
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