第39話 高橋君 考える
高橋が毎朝西園寺家に通うようになってから一週間、高橋は一分一秒も遅れることなく通い続け、寒い中文句も言わずに庭掃除をし続けた。
高橋の当初の目的である、清華お嬢様の執事になりお嬢様の胸を触る(?)というものは達成していないが、今の彼は、清華お嬢様と登校するということが最大のモチベーションとなっていた。
もちろん、清華が渉のエスコートで歩き、その後ろを荷物を持ってついていく…という荷物持ちの立場ではあるが。それでも、校門をくぐれば葵は職員用出入口へ、渉は二年の教室へ行くため、ほんの数十メートルであるが、清華を独り占めできるのだ。
その数十メートル、高橋が渉にとって代わることはないが…。
「今日から一週間、来週のダンスパーティーの支度で、帰りが遅くなるから。」
「私もお手伝いを。」
「うん、お手伝い係よろしくね。でも、女子は基本六時帰りが鉄則だから。葵先生と帰れる時はいいけど、そうじゃない時は…。」
「僕がお供いたします。」
高橋がここぞ!と会話に入ってくる。
高橋に任せるのも不安といえば不安なのだが、ここ数日でめっきり使用人らしさに磨きがかかり、喋り方や立ち居振舞いも葵の真似をしていた。
「高橋君もお手伝い係だろ?」
「はい。ですので、清華様をお送りしましたら、戻ってまいります。」
「うん、じゃあ…。そんな感じで。サーヤ、お昼に。」
「はい、渉君。」
渉が階段を上がり、二年の教室へ向かうと、清華は一年一組の教室へ向かい、後ろを高橋が歩く。
「高橋さん。」
「清華様、どうか高橋と呼び捨てでお願いします。」
「無理です!」
「葵先生のことは呼び捨てにするじゃないですか?」
「葵は、昔から知っているからです。」
「それを言うなら、僕…いえ私のことも昔からご存知ですよね?」
清華は言葉に詰まる。
実は高橋とは幼稚園から一緒だった。
同じクラスになったのは、年中の時に一回と、小学校の二年生の時だけだが。
仲良しというほど遊んだことはないが、小さい時から知ってるか?て聞かれれば、知り合いですと答える程度だ。
ちなみに、裕美も同じ幼稚園からの知り合い組に入るが、狭い町だから、半数弱は幼稚園から一緒だったりする。
「だからって、呼び捨てにはできません。」
「あら、今日も下僕を連れての登校ね。」
朝から偉そうな裕美が現れた。
「下僕じゃございません。高橋さんです。」
裕美は、高橋を見ると鼻を鳴らした。
「聡なんか、下僕がお似合いよ。」
「聡…さん?」
「私の下の名前でございます。」
「裕美さんとお親しいのですか?」
「はい。」
「止めてよ、こんな変態と!」
二人の声が重なる。
裕美は、すごーく嫌そうな顔をしている。
「ただ家が隣りなだけよ。」
「そうなんですか?」
「まあ、たまたま。」
「ところで!」
裕美がズイッと清華に近寄る。
「はい?」
「来週のダンスパーティー、あなたみんな断っているようだけど、まさか出席しないつもり?」
「いえ…。時間があれば、渉君と…。」
「な…な…なんですって?!」
裕美は清華の両腕をつかみ、引き寄せる。
「まさかと思うけど、生徒会長に申し込まれてないわよね?」
ここで肯定したら、渉と公認の仲になれる。
でも、同じ家に住んでいるのが周知の事実の今、付き合っているとばれるわけにはいかなかった。
「もし…申し込まれていたら、いかがいたしますか?」
「もしなんかいいのよ!」
裕美の食い付き方が半端ない。
やはり裕美さんは渉君のこと…。
「私からお願いいたしましたの。渉君、生徒会の仕事で当日もお忙しいようですから、少しは息抜きも必要かと思いまして。」
「息抜き…ね。確かに、運営側は遊んでる場合じゃないかもね。私も息抜きに付き合ってあげなくもなくてよ。」
「いえ、私が!」
「あら、私が!」
学園で一番人気と二番人気の女子が取り合う渉と自分との違いはいったい何なのか?清華と裕美の会話を聞きながら、高橋は真剣に考えるのだった。
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