第32話 渉、クリスマスダンスパーティーの申し込み

 清華と渉の知らないところで、二人をくっつけるプロジェクトが起動始めたとも知らず、当の二人は縁側でお茶をすすりながら、まったりと日向ぼっこをしていた。


「今日は暖かくて気持ちいいね。」

「もうすぐ十二月だなんて思えませんわ。」

「もう十二月か。十二月と言えばクリスマス…。」

 十二月と言えばクリスマス。クリスマスと言えば…西園学園ではダンスパーティーが開かれる。

 学園の三大イベントの一つで、特にこの時期は学生達の動きが活発になる。

 ダンパに向け、相手探しの告白合戦が繰り広げられるのだ。

 去年は、お手伝い係としてダンパに関わっていた渉は、裏方に徹していたため、告白合戦にはもちろん参加していないし、今年も参加するつもりはない。

 ただ、このお祭り騒ぎに乗じて、清華にダンパの相手を申し込んでくる男が多数いるのではないかと、気が気じゃなかった。


 もう、数人から申し込まれたんじゃないだろうか?


 また、片方が西園学園の生徒であれば参加可能としているため、生徒のみならず学外の誰もが清華に告る可能性があった。


 みんなで告れば怖くない。

 恥のかき捨て(旅はしていないが)。

 上手くいけばラッキー、ダメで元々。

 そんな雰囲気に溢れ、ダンパの申し込み=告白という気安い流れができあがっていた。


 サーヤは、ダンパの申し込みを受けることが、告白をOKすることだと知っているのだろうか?


「クリスマスは…、パーティーとかするの?」

「いえ、うちは神道ですから。」

「そう…なんだ。」

「渉君のお宅はなさりますの?」

「うちも…最近はないな。母が生きていたときは、ツリーを飾って、鶏肉を焼いて、ケーキを食べてってしてたけどね。」

「鶏肉!」

 清華の目が輝く。

「鶏の丸焼き、旨かったな。皮がパリッとしていて、肉は柔らかくて。おなかに、パンと人参とか玉ねぎをあえた具が入っていて、それがまた脂をすって旨いんだ。」

「素敵ですわ!クリスマスパーティー、いたしましょう!」


 毎回思うのだが、こんな見た目で、根っからのお嬢様のわりには、食には貪欲というか…。


 清華の料理が美味しいのも、数少ない材料で、どれだけ美味しく見映えよく作れるかを探究した結果であり、食への情熱の賜物であった。

「渉君のお母様の鶏の丸焼き、是非作りたいです!」

「今度、親父に聞いとくよ。」

「お願いいたします。」

 まあ、渉にしても、二度と食べれないと思っていた母親手作りの鶏の丸焼きだから、清華が再現してくれたら嬉しいかぎりだった。


 でも、本題は…。


「うちの学校、クリスマスにパーティーするの知ってる?」

「ダンスパーティーですわね?」

 清華は知っているようだ。

「一緒に行こう…とか言われた?」

「そうですわね?クラスの男子には皆様からお誘いを受けましたわ。」

「全員?」

「ええ、他学年の方からも。皆様、膝をついて手を差し出しますのね?何かプロポーズのようでしたわ。」

 そう、申し込みをする時には、片膝をつき、左手を差し出す決まりになっており、OKなら女子はその手を取って立たせることになっている。

「手を取った?」

 渉は、恐る恐る聞いた。


 イヤですわ。

 他の男性の手を握るような、ふしだらな女性じゃありませんわよ。


 清華は、ちょっと不機嫌になる。

「渉君は、誰かに申し込まれたりしたのですか?」

「まさか!僕は今年も裏方だよ。生徒会主宰だからね。」


 だから、渉君は私を誘って下さらないのね?


「私もお手伝い係ですもの。お手伝いしますわ。ダンスパーティー、参加してみたい気もしますけど。」

「参加したいの?」

「まあ、楽しそうですし…。」

 ダンスパーティーの日は私服もOKで、みなお洒落をして参加すると聞く。一人制服では、シンデレラにでもなった心境になりそうだ。

「じゃあ…、もし時間ができたらだけど、僕と…。」

「僕と?」

 思わず誘いそうになり、渉は口ごもる。


 誘ってしまったら、告白したことになるのか?

 いや、サーヤは知らないみたいだし、多分告白成立にはならないだろう。


「私、渉君と参加したいですわ。だから、他の方はお断りいたしました。」

 迷っていたら、清華から先に言われてしまった。清華は、少しムスッとして、不機嫌な面持ちのままである。

「わかった。…じゃあ、時間が空いたらだけど、一緒に出席しようか?」


 何か情けなくないか?


 渉は、意を決して清華の前で片膝をついた。

「僕と、ダンパに参加してもらえますか?」

 清華は、ニッコリ笑ってその手を取る。

「もちろんですわ。渉君たら、地面に膝をついたら、洋服が汚れてしまいますわよ。」


 清華は知らないだろうと思っていたが、実はこれが告白であることを知っていた。というのも、聞かないのに、毎日裕美が何人から申し込まれたと報告にくるからである。その時に、この習慣のことを聞いていた。


 あまりにあっけなく手を取られたので、渉は清華がダンパ申し込みが告白を意味することを知らないんだと解釈した。


 これは、釘をさしておかないとだよな…。


「あのさ、ダンパ当日もお手伝い係は忙しいかもしれないから、他の人からの誘いは受けないほうがいいからね。」

 自分以外の誘いは受けるなと、バシッと言えない渉だった。

「わかりましたわ。」

 清華は、クスッと笑う。

 すでに超絶ご機嫌の清華だ。

 渉の心配など、無用の長物なのであった。

「お茶、新しいのを煎れてまいりましょうか?」

「いや、少し冷えてきたから中に入ろうか?」

「では、将棋でもいかがです?」

「いいよ。負けないからね。」

 二人は縁側から退散し、居間へ足を運ぶ。


 これが休日の二人の過ごし方であった。いつも二人で話したり、勉強したり、本を読んだりしていた。一緒にいない時は、渉が週一のバイトの時だけだ。

 つまり、家デートをしているようなものなんだが、二人も回りもこれがデートだとは認識していなかった。


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